- 著者
-
中島 隆信
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.36, pp.42-61, 2011-10-31
経済学が他分野にあれこれ口を出して引っかき回すことを「経済学帝国主義」という.しかし,刑事政策に関しては,経済学による「侵略」はこれまで日本ではあまりされてこなかった.その理由としては,犯罪を費用・便益の視点から分析することへの強い抵抗感があげられよう.しかし,刑事犯罪は裁判で有罪となった人間を刑務所に入れればそれで片が付くわけではない.犯罪には,取り調べ費用,裁判費用,施設収容費用がかかり,さらに社会復帰ができなければまた同じ費用が何度でもかかることになる.経済学的視点がすべてに優先するとはいえないが,経済のインセンティブ構造に明らかに反したり,費用・便益の観点からきわめて非効率だったりする社会政策は,いずれは国民の支持を失い,破綻に追い込まれるだろう.本論文は,近年進みつつある厳罰化,刑事裁判,矯正,そして更生保護にまつわる現在の日本の制度設計について,経済学的視点から検討を加えることにしたい.