- 著者
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チュ(崔) ジンギョ(珍景)
- 出版者
- 日本印度学仏教学会
- 雑誌
- 印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.3, pp.1200-1203, 2012-03-25
1990年代の中頃,パキスタンのギルギットから〔根本〕説一切有部教団が伝承した梵文『長阿含経』の樺皮写本が発見された.写本は完全な形で残っていたなら454葉よりなる巨大写本であったが,前半部は痛みが激しく,回収されたのは後半部約250葉と多数の断片であった.写本の予備的な分析の結果,〔根本〕説一切有部教団の『長阿含経』が,第1編「六経品」全6経,第2編「双品」9組のペアー経典よりなる全18経,第3編「戒蘊品」全23経の,3編47経から構成されることが判明した.この中,私は,第3篇「戒蘊品」に含まれる第25経,さらに第27経と第28経の計三経典について,ミュンヘン大学のイェンス=ウヴェ・ハルトマンと佛教大学の松田和信の指導を受けながら,ミュンヘン大学に提出予定の学位請求論文の一部として,それら三経典の解読研究を行っている.その中,第27経と第28経は写本に現れるウッダーナ(項目,目次)から判断して,両方ともLohitya-sutraの同一タイトルで呼ばれていたことが知られる.パーリ長部の第12経(Lohicca-sutta)は,これら二経典の第28経の方に対応し,第27経はパーリ三蔵にも漢訳『長阿含経』にも対応経典の存しない〔根本〕説一切有部独自の経典である.今回の発表では,二つのLohitya-sutraの内容と解読研究の現状を報告し,なぜ同名の二つの経典が同じ『長阿含経』中に存在するのかを考察した.