- 著者
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外枦保 大介
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.1, pp.1-16, 2012-03-30
本稿の目的は,自己完結型生産体系の企業城下町である南足柄市における,中核企業の事業再構築とそれに対する地域諸主体(自治体,下請企業)への対応の実態解明を通じて,企業内地域間分業の再編をめぐる中核企業・地域の相互作用の意味について考察することである.2000年代,南足柄市と隣接する開成町において,富士フィルムは,写真感光材料事業を縮小する一方で,それで培われた技術を活かして,液晶用フィルムの工場を新設した.また,研究所を新設し,研究開発機能の強化を図った.企業内地域間分業の再編に伴い,そこは,主力事業の生産を担う役割から,高付加価値な製品を創出する生産・研究開発拠点という役割へ変化した.富士フィルムの事業再構築の影響を強く受けた南足柄市は,富士フィルムを引き留め,再投資を促すために対応し,研究所や工場を誘致した.中核企業出身の市長が誕生したことで,企業の意向が自治体政策に反映されやすくなった.自治体財政が悪化し企業城下町として危機に陥ったものの,結局,中核企業との結びつきを強め,企業城下町として生き残る道を選択した.一方で,下請企業も事業再構築の影響を被っており,取引先拡大や新事業展開,技術力強化が求められているが,市はそれら課題克服のために直接的な支援はせず,再投資の波及効果の期待に留まっている.南足柄市では,中核企業へのスピーディな対応が投資を引き付ける決め手の一つとなった.製品のライフサイクルの短縮化にあわせて企業組織を適時に再編するという企業の意向が,いっそう自治体政策に影響を及ぼすようになってきたことが,今日の自己完結型生産体系の企業城下町が有する特質の一つである.