著者
外枦保 大介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.40-57, 2012-01-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
115
被引用文献数
2

本稿の目的は,進化経済地理学の主要業績を読み解くことを通じて,進化経済地理学の発展経路を探索し,今後の可能性を検討することである.進化経済学は,ルーティンを鍵概念として議論を展開しており,議論の特徴の一つである方法論的な多様性や開放性は,進化経済地理学に受け継がれている.重層的空間スケールにおける経済システムの進化を議論する進化経済地理学のうち,本稿では,経路依存性と一般ダーウィニズムのアプローチの議論動向を取り扱った.前者のアプローチでは,地域の発展経路を描く手法が開発される一方で,経路依存性と均衡・非均衡との関係が再考されている.後者のアプローチでは,生物学の概念が導入され,特に「関連した多様性」は関心を呼んでいる.今後の可能性として,理論と実証をつなぐ中間概念の整備,有意義な事例研究の蓄積と既存研究の再評価,重層的な空間スケールにおける多様な主体の進化を取り扱うことを指摘した.
著者
外枦保 大介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.26-45, 2009-01-01 (Released:2011-05-12)
参考文献数
53

本稿は,宇部興産の企業城下町である山口県宇部市を事例として,産学官連携による主体間関係の変容に関する実態解明を通じて,産学官連携が産業集積の質的変化に果たしつつある役割を考察する.従来の主体間関係は,宇部興産とその下請企業から成る垂直的な構造であった.一方,1950年代の産学官連携による公害の克服や1980年代のテクノポリスの指定など,大学と企業・自治体との関係も構築され,今日の産学官連携の基盤となった.1990年代以降,産学官連携の進展により,宇部興産に加えて山口大学が主体間関係の中核になっている.宇部興産は,山口大学と包括的連携を結び,製品開発の高付加価値化を進めている.一方,中小企業は,技術等を獲得し,取引相手や共同研究相手を拡げている.特に宇部興産の下請企業にとって,産学官連携は,脱下請化を促進させる可能性がある.このように産学官連携は,産業集積のロックインを解放し,それを水平的構造に転換させるという重要な意味がある.
著者
外枦保 大介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.452-462, 2018 (Released:2018-10-04)
参考文献数
13

本稿は,スウェーデン北部の鉱山都市キルナ市・イェリヴァレ市における,都市・産業の動態を追跡しながら,近年,両市で進行している都市移転の経緯について明らかにした.鉄道や港湾の整備によって,19世紀末から本格的に,キルナ・イェリヴァレ両市において鉄鉱石の採掘がはじまった.キルナ・イェリヴァレ両市は,LKAB社の発展とともに都市形成が進み,LKAB社が社会基盤の整備にも貢献してきたことから,両市ともに企業城下町的性格を帯びてきたといえる.キルナ鉱山やマルムベリエト鉱山では,地下で鉄鉱石を掘り進めており,2000年代以降,地表陥没の恐れが高まってきている.そこで,LKAB社は,キルナ・イェリヴァレ両市当局と協議をし,住民に対する同意をとり住民へ補償をしながら都市移転プロジェクトを進めている.
著者
外枦保 大介
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-16, 2012-03-30

本稿の目的は,自己完結型生産体系の企業城下町である南足柄市における,中核企業の事業再構築とそれに対する地域諸主体(自治体,下請企業)への対応の実態解明を通じて,企業内地域間分業の再編をめぐる中核企業・地域の相互作用の意味について考察することである.2000年代,南足柄市と隣接する開成町において,富士フィルムは,写真感光材料事業を縮小する一方で,それで培われた技術を活かして,液晶用フィルムの工場を新設した.また,研究所を新設し,研究開発機能の強化を図った.企業内地域間分業の再編に伴い,そこは,主力事業の生産を担う役割から,高付加価値な製品を創出する生産・研究開発拠点という役割へ変化した.富士フィルムの事業再構築の影響を強く受けた南足柄市は,富士フィルムを引き留め,再投資を促すために対応し,研究所や工場を誘致した.中核企業出身の市長が誕生したことで,企業の意向が自治体政策に反映されやすくなった.自治体財政が悪化し企業城下町として危機に陥ったものの,結局,中核企業との結びつきを強め,企業城下町として生き残る道を選択した.一方で,下請企業も事業再構築の影響を被っており,取引先拡大や新事業展開,技術力強化が求められているが,市はそれら課題克服のために直接的な支援はせず,再投資の波及効果の期待に留まっている.南足柄市では,中核企業へのスピーディな対応が投資を引き付ける決め手の一つとなった.製品のライフサイクルの短縮化にあわせて企業組織を適時に再編するという企業の意向が,いっそう自治体政策に影響を及ぼすようになってきたことが,今日の自己完結型生産体系の企業城下町が有する特質の一つである.