著者
西村 明
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.369-391, 2012-09-30

本稿では、永井隆の読み直しの作業を行う。高橋眞司による浦上燔祭説批判と自説を踏まえながら、彼の原爆死のとらえ方の重要な契機として従軍体験と職業被曝に注目する。七二回の戦闘を経験し、死者とのあいだに決定的な差異がなくなる生死の境界線から復員した永井は、そうした偶有性を「天主の摂理」としてカトリシズムの枠内でとらえた。しかし他方で、「犬死に」となることを避けるために、ある目的の達成に向けられた死に方に価値を見いだすような戦時状況に基づいた理解も見られる。さらに、放射線医学への従事から白血病を発症し余命宣告を受けるが、科学的な「殉教」の文脈で自らの死を受け止めている。それが、原爆死者の犠牲を是認することにも道を開いている。最後に、浦上燔祭説として批判されたものの内実には、死者の霊魂をしずめることを通して、生死の境界を峻別し、生き残った者たちを再建・復興へと導く意志が認められることを論じている。

言及状況

Twitter (4 users, 4 posts, 0 favorites)

収集済み URL リスト