著者
細谷 里香 松村 京子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.331-342, 2012-09-20

我々は以前,優れた教師が子どもと関わるときに自身の情動能力に自覚的であり,子どもの前での情動表出を指導に用いる有効なスキルの一つとして捉えていることを報告した。本研究は,教育実習に参加した教員養成課程在籍学生の子どもと接しているときの情動体験および情動表出パターンを明らかにし,実習生と優れた教師の情動体験・情動表出および調整プロセスの比較により,今後の教員養成への示唆を考察することを目的とした。教育実習終了後の大学生計41人に,個別に半構造化面接を実施し,質的な分析を行った。実習生は,子どもと関わっている時に,喜びなどのポジティブ情動とともに,怒り,悲しみ,恐れ,嫌悪などのネガティブ情動も感じていた。ネガティブ情動は子どもだけでなく,自分自身によっても喚起されていた。優れた教師との顕著な違いは,実習生が教師としての未熟さに由来する恐れを感じていたことであった。情動表出パターンとしては,自然な表出,情動の直接的演出,抑制等のほかに,実習生の顕著な特徴として,恐れのコントロール不能が見出された。優れた教師が自覚的に行っていた怒りの直接的演出は,実践を困難に感じる実習生がいたことが明らかとなり,実習生の怒りの演出に関連する情動調整プロセスが見出された。教員養成教育において,子どもと関わるための教師の情動能力への気づきを促すような教育が求められる。

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