著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-188, 2009-06-10

本研究では,サンタクロースのリアリティに対する幼児の認識を調べた。研究1と2では,私たちは"昼間に保育園のクリスマス会で出会う大人が扮装したサンタ"(直接的経験)と"夜中に子どもの寝室にプレゼントを届けてくれるサンタ"(間接的経験)について子どもにインタビューした。その結果,4歳児は大人が扮装したサンタを"本物"と判断する傾向があるのに対し,6歳児は"偽物"と判断する傾向があることが示された。他方,6歳児は夜中にプレゼントを届けてくれるサンタを"本物"と判断していることが示唆された。研究3では,研究1と2の2種類のサンタに加えて,"デパートで出会うサンタ","昼に子どもの家を訪問するサンタ","夜に空を飛んでいるサンタ","夜にサンタ国に子どもを招待するサンタ"について,本物か偽物かの判断を求め,その根拠も求めた。その結果,5歳児は外見の類似をもとにサンタを「本物」と判断する傾向があるのに対し,6歳児は伝承されているサンタクロース物語と登場文脈との一致をもとに,"寝室","空の上","サンタの国"サンタを「本物」,"デパート","保育園","玄関"サンタを「偽物」と判断する傾向があった.以上の結果は,サンタクロースのリアリティ判断の発達における直接的経験と登場文脈の影響という点で議論された。
著者
柏木 惠子 若松 素子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.72-83, 1994-06-30
被引用文献数
32

「親となる」ことによって親にどのような人格的・社会的な行動や態度に変化 (親の発達) が生じたかを, 就学前幼児をもつ父親と母親346組を対象として比較検討を行った。加えて, 子どもや育児に対する感情・態度及ぴ性役割に関する価値観の測定も行い, 母親の職業の有無, 父親の子育て・家事参加度との関連で分析を行った。その結果, 「親となる」ことによる発達は柔軟性, 自己抑制, 視野の広がり, 自己の強さ, 生き甲斐など多岐にわたるが, いずれの面でも父親より母親において著しいこと, 子ども・育児に対して父親が青定的な感情面だけを強く持っているのに対して, 母親では肯定面と同時に否定的な感情もあわせもつアンヴィバレントなものであること, 父親の育児・家事参加度の高さは母親の否定的感情の軽減につながる, 同時に父親自身の子どもへの肯定的感情が強まり, 母親のそれと近いものになること, 父親及び母親の性役割についての価値観は, 父親の育児・家事参加及び母親の有職と相互に一貫した形では対応しており"言行一致"があること, などが見出された。
著者
荘島 幸子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.83-94, 2010-03-20

本研究は,身体に対する強烈な違和感から,身体的性別を変更することを望む我が子(身体的性別女性,A)から「私は性同一性障害者であり,将来は外科的手術を行い,身体的に男性になる」とカミングアウトを受けた母親(M)による経験の語り直しに焦点を当てた事例研究である。子からカミングアウトを受けて2年が経過した第1回インタビュー時に,「性別変更を望む我が子を簡単には受け入れることができない」と語っていた母親1名に対し,約1年半の間に3回のインタビューを行った。分析の視点は,【視点1:Aについての語り直しの状況】,【視点2:構成されるMの物語】,【視点3:語りの結び直し】の3つであった。A-Mの関係性は,3回のインタビューを経て良好なものへと変化していた。分析の結果,Mが語り直しのなかで,親であることを問い直しながら自らの経験を再編し,M自身の人生の物語を再構成していく過程が明らかにされた。語りを生成する際には,他者(周囲の他者/聞き手としての他者)が重要であることが見出された。考察では,自責の念や悔いといった語り直しから母親の生涯発達を捉え,従来の段階モデルを越えた議論を行った。また,Mの語り直しを促進させ,親物語の構成を下支えする1つの軸となる役割を担う存在として聞き手を位置づけた。
著者
瓜生 淑子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.13-24, 2007-04-20

本研究では,70人の幼児に対して,人気のキャラクター(アンパンマン)を登場させた課題場面を構成し,アンパンマンを救うために対決場面で敵(ばいきんまん)に嘘の在処(アンパンマンを救うための大事なものが入っていない空の箱)を教えられるかを検討した。その結果,年中児は80%が,年長児は100%が正答した。誤信念課題(位置移動課題)の結果とも比較したところ,誤信念課題正答より1年以上先んじた成績であることから,年中児以上になると,「心の理論」獲得に先立って嘘をつくことが可能になってきていることがわかった。しかし,年少児では,嘘をつく課題の方が逆に正答率が30%程度と低く,嘘をつく反応への葛藤がうかがえた。回帰分析の結果,この課題では,「男児」優位が示されたことから,認知的課題である誤信念課題と違って,パーソナリティ要因の影響も示唆された。しかし,嘘をつく課題では,正答率の低い年少児も含めて良い回帰モデルが作られたことなどから,年少児の正答率の低さは,そもそも嘘をつく行為がこの時期,まだ萌芽的であることを示していると解釈され,「心の理論」獲得の時期は欧米の子どもに比べてやや遅く,年中児以降と考えられるのではないかと考えられた。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.122-135, 2002-08-10

空想の存在に対する幼児・児童の認識を調べるために2つの研究を行った。研究1では,4歳児30名,6歳児32名,8歳児29名に対して,4つの空想の存在(サンタクロース,おばけ,セーラームーン,オーレンジャー)について「会ったことがあるか」「会ったとすればそれは本物だったか」「どうしたら会うことができるか」を尋ねた。研究2では,その親91名に対して質問紙調査を行い,「子どもはこれまでに空想の存在の扮装物と会ったことがあるか」「まだ信じていると思うか」などを尋ねた。主な結果は次の通りである。(1)空想の存在の扮装物を"本物-偽物"の次元によって認識し,本物と偽物が未分化な状態から分化した状態へと移行するようになるのは4歳から6歳の間であることが示唆された。(2)空想の存在を"実在-非実在"の次元によって認識し,実在と非実在が未分化な状態から分化した状態へと移行するようになるのは6歳から8歳の間であることが示唆された。
著者
矢吹 理恵
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.215-224, 2005-12-20

日本人が国際結婚をする場合, 結婚後の戸籍上の氏を夫婦同姓, 別姓のうちから選択することが民法上可能である。さらに, 同一人物が日本にいる時とアメリカにいる時で名のりを一致させる必要がない。このような選択的な状況のもとでは, 名のりは個人の文化的アイデンティティを表す指標の一つであると考えられる。本研究では, 日米間の国際結婚の夫婦の日本人妻が結婚後に選択する名のりの形態とそれにかかわる要因, そして名のりに付与された「意味」を, 対象者のライフヒストリーの文脈において明らかにするために, 在日の夫アメリカ人・妻日本人夫婦20組に対して質問紙および面接調査を行った。その結果, 妻の名のりには自分の「日本姓」, 夫の「アメリカ姓」, 両方をつなげた「混合姓」の三つの形態が見られることがわかった。妻の名のりの選択は, 日本とアメリカにおいて各自が置かれた状況によって自己の社会的な利益を最大化するための「戦略」(Bourdieu, 1979/1990)として機能していた。名のりの使い分けに見られるアイデンティティの選択は, 個人や集団の文化的アイデンティティは永続的なものとして存在しているのではなく, 変異するものであるというHall (1997/1998)の「位置取り(positioning)」として位置付けられた。
著者
小野寺 敦子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-25, 2005-04-20
被引用文献数
7

68組の夫婦に縦断研究(子どもの誕生前, 親になって2年後, 3年後)をおこない親になることによって夫婦関係がどのように変化していくかについて検討した。夫婦関係は「親密性」「頑固」「我慢」「冷静」の4因子からなる尺度によって明らかにした。その結果, 親密性は親になって2年後に男女ともに顕著に低くなるが, 2年後と3年後の間には大きな変化はなかった。このことから, 夫婦間の親密な感情は親になって2年の間に下がるが, 3年を経過するとその下がったレベルのまま安定し推移していくことが明らかになった。しかし妻の「頑固」得点は母親になると著しく高くなっており, 妻は母親になると夫に頑固になる傾向が認められた。さらに夫の「我慢」得点は3期にわたって常に妻よりも高かった。これは夫が妻の顔色をうかがって妻に不快なことがあっても我慢してしまう傾向があることを示している。最後に「親密性」が低下するのに関連する要因について重回帰分析を用いて検討した。その結果, 夫の場合は妻自身のイライラ度合いが強いことと夫の労働時間が長いことが親密さを低下させていた。一方の妻の場合は夫の育児参加が少ないことや子どもが育てにくいことが夫への親密性を低める要因としてかかわっていた。
著者
藤崎 春代
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.99-111, 1995-12-10

本研究では, 3・4・5歳児に対して園生活の流れについて個別面接調査を行い, 一般的出来事表象 (GER) の形成と発達的変化について検討した。すべての子どもに, 登園から降園までの園生活全体の流れを聞く質問 (上位レベルについての質問) を行うとともに, 一部の子どもには, 給食時および昼寝時の流れを問う質問 (下位レベルについての質問) を重ねて行った。分析の結果, まず, 3歳児でも行為を述べる際に主語なしで現在形表現をしており, また時間的順序も一定であるなど, GERを形成していることが確認された。しかしながら, 3歳児においては, 報告行為数は4・5歳児より少なく, 遊びのようにルーティン化の程度の低い活動については, 具体的な遊びの内容や遊び仲間の名前をともなって述べることが多い。また, 上位レベルで述べられなかった行為が下位レベルで報告されるようになるのも, 4歳以降であった。なお, おやつをそのメニュー内容からごはんと呼ぶ子どもがいることからは, 子どもが園以外の場で獲得した知識を汎用していることが示唆された。多くの5歳児は, 日常活動を階層的に報告していたが, そうでない児もいた。報告行為数と構造において個人差がありそうである。
著者
中道 圭人
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.228-239, 2011-09

幼児の反事実的推論に因果関係の領域が及ぼす影響を検討した。実験1では3-5歳児(N=74)を対象に反事実課題を実施した。反事実課題では,幼児に初期状態⇒原因事象⇒結果状態からなる因果関係を含んだ物語を提示し,その因果関係の原因事象が異なっていたら結果状態がどのように変化するかを尋ねた。因果関係には3つの領域(物理・心理・生物)があった。その結果,年少児より年中児・年長児で,物理的領域より生物的領域で,その2領域より心理的領域で推論遂行が良いことが示された。実験2では3-5歳児(N=30)を対象に結果選択課題を実施した。結果選択課題では,3領域それぞれに関して,ある原因事象を提示し,その結果状態がどのようになるかを尋ねた。その結果,結果選択に関して領域による遂行差は見られず,反事実的推論の領域による遂行の違いが実験1で用いた因果関係に対する理解の違いに起因するのではないことが示された。これらの結果は,反事実的推論能力が4-5歳頃に向上すること,その能力には領域に関する何らかの制約が影響している可能性を示唆している。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.182-191, 2010-06-20

本研究の目的は,大学生のアイデンティティの確立の程度及び推測された恋人のアイデンティティの確立の程度と,恋愛関係の影響との関連を検討することである。現在恋人のいる大学生212名を対象に,高坂(2009)の恋愛関係の影響項目40項目,加藤(1983)の同一性地位判別尺度18項目,恋人のアイデンティティの確立の程度を推測できるように修正した同一性地位判別尺度18項目への回答を求めた。その結果,回答者本人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「時間的制約」得点が低かった。また推測された恋人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「自己拡大」得点や「充足的気分」得点が高く,「他者交流の制限」得点が低かった。これらの結果から,恋人のアイデンティティが達成型やフォークロージャー型であると,恋愛関係をもつことが青年の人格発達に有益にはたらくことが示唆された。
著者
大野 祥子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.287-297, 2012-09-20

本研究は男性のワークライフバランスから抽出した「生活スタイルのタイプ」ごとに,夫婦間での職業役割と家庭役割の分担のしかたが彼らの生き方満足度にどのように影響するかを検討し,男性にとっての家庭関与の意味を再考することを目的とする。調査対象は3〜4歳の子どもを持つ育児期男性332名であった。仕事を生活の最優先事項とする2タイプ(「仕事+余暇型」・「仕事中心型」)と,仕事と家庭に同等のエネルギーを傾注する「仕事=家庭型」の下位分類2タイプ(「二重基準型」・「平等志向型」), 計4タイプについて,男性の生き方満足度を基準変数とする階層的重回帰分析を行った。「仕事+余暇型」の満足度は家庭関与の変数によっては説明されなかった。「仕事中心型」では休日家族と過ごす時間がとれ育児に関わる余裕のあることが満足度と関連していた。家庭志向の高い2タイプのうち「平等志向型」は自身の家事分担率の高さが生き方満足度を高める共同参画的な結果が見られたが,「二重基準型」では妻が性別役割分業に賛成であることのみが有意な効果を持っていた。これまで男性の家庭関与は妻子や男性本人の適応・発達にプラスの効果を持つとされてきたが,タイプごとに異なる意味を持つことが明らかになった。男性の家庭関与の議論は夫婦関係や労働環境など,より広い文脈の中で捉え,稼得や扶養は男性の役割とする男性性役割規範の見直しを伴うことが必要であろう。
著者
加藤 邦子 石井クンツ 昌子 牧野 カツコ 土谷 みち子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.30-41, 2002-04-20
被引用文献数
5

本研究の目的は,3歳児の集団場面における社会性の発達に及ぼす父親・母親の影響について,父親の育児かかわり要因,母親の育児不安要因をとりあげてモデルを仮定し,バス解析によって関連を明らかにすることである。その際,父親の生活において,最近家族とともにすごす時間が多くなったとされていることから,背景の異なる2つの時期の親子,つまり1997〜1998年のデータ(コホート2)と1992〜1993年のデータ(コホート1)とを比較する。その結果,3歳児の社会性に関しては,父親の育児かかわり要因がどちらのコホートにおいても有意な関連を持つことが明らかとなり,子どもの社会性の発達に父親の育児かかわりが直接的な影響を与えていた。間接的要因として夫婦の会話の頻度が父親の育児かかわりに関連を示しており,夫婦関係による影響が示唆された。
著者
塚越 奈美
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.25-34, 2007-04-20

4歳児・5歳児・6歳児(各42名)計126名が本研究に参加した。願いごとをすると空の箱に対象物が出現する現象を見た後,部屋に1人きりになった場面での子どもの行動が観察された。現象の再現可能性を子どもが検証しようとしているかどうかに着目し,主に,仕方を変化させながら複数回願いごと行動をするかと,箱の仕組みやトリックを調べる行動を示すかどうかを中心に分析した。その結果,そのような行動のうち片方あるいは両方を示した子どもの人数の割合は,4歳児26%,5歳児64%,6歳児71%であった。特に,5歳児・6歳児では,仕方を変化させながら複数回願いごと行動のみを示した人数と,この行動と箱の仕組みやトリックを調べる行動の両方を示した人数が多かった。これらの行動の年齢差は,目の前で示された不思議な現象を単純に信じるのではなく,それがなぜ起きるのかを自分で確かめようとする姿勢の違いを反映した結果ではないかと議論された。
著者
藤田 英典
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.439-449, 2012-12-20
被引用文献数
2

1990年代半ば以降,貧困・経済的格差が新たな社会問題として浮上し,子どもの生活・福祉・教育機会や発達にも深刻な影響を及ぼすようになった。本稿では.その現代的な貧困・格差の実態・特徴と子どもへの影響について,学力形成・教育達成と児童虐待を中心に,以下の構成で検討・考察している。(1)現代の貧困・格差や文化・社会のありようを踏まえ,その環境諸要因が子どもの発達の諸側面に及ぼす影響について仮説的な概念図を提示し,貧困が及ぼす影響の重大性を指摘する。(2)貧困・経済的格差の実態と子どもの教育達成・学力形成に及ぼす影響について種々の統計データに基づき検討し,貧困・格差の構造的複合性を指摘し,教育格差・学力格差の生成メカニズムについて経済的要因と文化的要因・社会心理的要因・学校要因が重なり合って格差が生成されていることを論じる。(3)児童虐待の実態とリスク要因について検討し,貧困が,単親家庭や孤立・育児疲れ等と相まって,その主要なリスク要因になっていることを確認する。(4)貧困・格差の再生産の傾向が強まっていることを確認し,今後の政策的・社会的課題について若干の私見を略述する。
著者
杉本 英晴 速水 敏彦
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.224-232, 2012-06-20

青年期は職業につく準備期間とされ,とくに青年期後期に行われる進路選択は非常に重要である。しかし最近,大学生における進路選択の困難さが指摘されている。本研究では,仮想的有能感の類型論的アプローチから就職イメージについて検討することで,他者軽視に基づく仮想的有能感と進路選択の困難さに影響を及ぼす就職に対するネガティブなイメージとの関連性について検討することを目的とした。本研究の目的を検証すべく,大学生339名を対象に,自尊感情尺度,他者軽視尺度,就職イメージ尺度,時間的展望体験尺度から構成された質問紙調査を実施した。その結果,他者軽視傾向が高く自尊感情が低い「仮想型」は,他者軽視傾向が低く自尊感情が高い「自尊型」と比較して,就職に対して希望をもてず,拘束的なイメージを抱いていることが明らかとなった。また,「仮想型」の時間的展望は,過去・現在・未来に対して肯定的に展望していないことが確認された。本研究の結果から,肯定的な展望ができない「仮想型」は,他者軽視を就職にまで般化していると考えられ,「仮想型」にとって就職することをネガティブにとらえることは,自己評価を最低限維持する自己防衛的な役割を果たしている可能性が示唆された。
著者
宮本 英美 李 銘義 岡田 美智男
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.78-87, 2007-04-20
被引用文献数
4

近年,人間とロボットの社会的関係に注目したロボットの研究開発が進められるに伴い,ロボットを用いた自閉症療育支援も提案されてきている。これまでの研究では自閉症児がロボット等の無生物対象に興味をもち社会的反応を示すことが報告されているが,ロボットが他者のような社会的主体として扱われていることを評価するのは容易ではない。本研究では,ロボットが社会的主体としてどのように関係性を自閉症児と共に発展させるかを検討した。養護学校の児童とロボットの相互作用場面を縦断的に観察し,ロボットの意図的行動に固執した二名の自閉症児のパフォーマンスを分析した。その結果,対象児はロボットの意図に対して鋭敏であり,ロボットと相互作用を続ける中で固執していた行動パターンを修正していたことが示された。以上の知見は,ロボットが自閉症児と社会的関係を発展させられると同時に,彼らの社会的反応の促進に有効である可能性を示唆している。
著者
秋田 喜代美
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.90-99, 1992-12-25

本研究は, 子の読書への参加と熟達化に家庭が果たす役割という観点から, 読書に関する家庭環境を, (1) 家に本を置くという物理的環境準備者としての役割, (2) 親自身が読書を行い, 読書熟達者のモデルを子に示す役割, (3) 子に本を読むよう勧めたり, 本を買い与えたり, 本屋や図書館へ連れていくなど直接的な動機付けを行う役割, (4) 親が子どもに本を読んでやることによって直接読み方を教授したり, 子どもが本を理解できるよう援助したりする役割の4種類に整理し, 各役割が子の読書に与える影響を検討したものである。小3, 小5, 中2, 計506名を対象に質間紙調査を行った結果, 次の4点が明らかとなった。第1に, 親が読書好きであることが, 子に対する様々な行動の量に影響を与えること, 第2に親が読み聞かせをしたり図書館や本屋に連れて行くなど, 読書に関して子どもと直接関わることの方が蔵書量や親自身の行動よりも子の感情に与える影響が大きいこと, 第3に親の役割内容には子の感情と関連のある役割と読書量と関連のある役割があること, 第4に役割には子の学年と共に影響が弱くなる役割と学年によらず影響を与える役割があることである。
著者
杉村 智子 原野 明子 吉本 史 北川 宇子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.145-153, 1994-12-15

4, 5歳児が, サンタクロース, おばけ, アンパンマン (TVアニメのキヤラクター) といった日常的な想像物に対してどのような理解をしているかについて, 次のような方法で調べた。"サンタクロースと会ったことがありますか", "サンタクロースと会うことができると思いますか"などの行動感覚的基準による判断を求め, さらにその判断の基準をインタピュー形式で尋ねた。主な結果は次の通りである。 (1) 大部分の子どもはサンタクロースのような目常的な想像物が実在すると考えている, (2) 4歳児の判断の基準が実際の経験に基づくものであるのに対して, 5歳児の判断の基準は想像や推測に基づいている。
著者
富田 昌平 小坂 圭子 古賀 美幸 清水 聡子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.124-135, 2003-08-15

本研究では,Harris, Brown, Marriott, Whittall, & Harmer (1991)の空箱課題を用いて,幼児の想像の現実性判断における状況の迫真性,実在性認識,感情喚起の影響について検討した。2つの実験において,実験者は被験児に2つの空箱を見せ,どちらか一方の箱の中に怪物を想像するように要求した。その際,実験者は披験児に怪物の絵を見せ,その実在性の判断を尋ねた。想像した内容についての言語的判断と実際的行動を求めた後,実験者は被験児を部屋に一人で残し,その間の行動を隠しカメラで記録した。最後に,実験者は被験児に想像した内容についての言語的判断と感情報告を求めた。状況の迫真性の影響は,実験者が事前に怪物のお話を問かせる例話条件,実験者が魔女の扮装をしている扮装条件,それらの操作を行わない統制条件との比較によって検討した。実在性認識と感情喚起は,それらの質問に対する回答と他の測度での反応との関連から検討した。以上の結果,(1)状況の迫真性の影響は場面限定的であること,(2)実在性認識の影響は言語的判断における信念の揺らぎに見られること, (3)感情喚起の影響は部屋に一人で残されたときの自発的な行動において見られることが示された。