著者
中島 弘二
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.8, pp.64-75, 2009-05-23

本稿は近年の英語圈の人文地理学における「社会的自然」研究の視点を援用して、戦後の造林ブーム期に大分県で展開された国土緑化運動において生みだされた「みどり」の自然を批判的に読み解いていく作業をおこなった。自然をさまざまな主体間の力関係のもとで社会的に構築される媒体としてとらえる「社会的自然」研究の視点は、支配的な諸制度と結びついてメディア化した現代の環境を批判的に理解するうえで有効であると考えられる。こうした視点に基づいて、1950年代の造林ブーム期における大分県の国土緑化運動を自治体や緑化推進委員会が推し進めた「緑化の政治学]、人々をその担い手として取り込みながら県内各地で展開された「緑化のパフォーマンス」、そしてマスメディアによってうみだされた「緑化の表象」の三つの局面から分析し、それらの諸局面を通じてうみだされた種別的な「みどり」の自然を批判的に検討した。その結果、記念植樹や造林を通じてうみだされた「みどり」の自然は単にスギ・ヒノキの人工林の景観を山林原野にうみだしただけでなく、そうしてうみだされた景観を舞台として人々を緑化の担い手へと駆り立て、さらにメディアを通じて「あるべき」自然を再構成していくという一種の自己準拠的なシステムとして作用したことが明らかとなった。

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