- 著者
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高田 壮則
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.1, pp.69-80, 2013-03-30
- 被引用文献数
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4
炭素収支に関わる費用および利得を計算することによって、個葉の寿命の多様性について説明しようとする考え方が 1980 年代に広く唱導された。ほぼ同時代に数理生物学の分野では、「最適戦略理論」にもとづく数理モデルが数多く提唱されていた。それらの潮流の中で展開された理論的研究では、葉寿命を戦略とし、何らかの量を目的関数とした時、目的関数を最大とする最適葉寿命を求めるという最適戦略理論の枠組みを用いている。1980年代後半から登場した三つの数理モデル(「落葉樹モデル」、「光合成効率モデル」、「温度依存モデル」)は、いずれも葉一枚を光合成工場として考え、「適当」な展葉時期と落葉時期を求めようとするものである。初期に開発された「落葉樹モデル」は、落葉性樹種の展葉・落葉時期に着目し、葉の老化が初夏の春植物の登場を促す要因の一つであることを示したが、一年のなかの季節変化だけを考慮し、常緑性も含めた一般の葉寿命をカバーしたモデルではないという欠点があった。また、葉の構成コストは考慮されていなかった。それらの欠点をカバーするために登場した「光合成効率モデル」は、葉寿命が光合成速度や構成コストにどのように依存しているか、なぜ常緑性樹種が熱帯域と寒帯域の二峰性をもつかを理論的に示すことに成功したが、「落葉樹モデル」とは異なる目的関数(光合成効率)を用いているために、以前のモデルで得られた結果との比較が難しいモデルであった。その後開発された「温度依存モデル」は光合成速度の気温依存性に着目し、世界の各地域における最適葉寿命を求めているが、これも他のモデルの結果との比較に耐えうるモデルではなかった。 これらの異なる仮定および目的のもとで構築されたモデル群を俯瞰すると、いくつかの疑問が生じる。これらのモデルを統合したモデルによって、今まで得られた結果をすべて示すことはできないのだろうか。そのために設定される統一された目的関数はどのようなものであろうか。統一された目的関数によって得られた落葉性の解は、「落葉樹モデル」のそれと一致するのであろうか。ここでは、これらの数理モデル開発の歴史を詳説するとともに、理論的アプローチの整合性という視点から、それらの理論的試みが内包する問題点について明らかにした。