著者
柏木 隆雄
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.65-82, 2012

明治以降の日本の近代社会に与えた思想的影響の大きさは、「おそらくマルクスに次ぐ位置を占め」、「特に『告白』を中心とする自伝は19世紀以降の近代文学の一つの方向を決定づけた」と小西嘉幸が述べるとおり、ルソーの『告白』は明治24年森鴎外によって独訳から『懺悔記』と題されてその一部分が新聞に訳載され、ルソー生誕200年を記念する形で石川戯庵の完訳『懺悔録』が大正元年に出て、たちまち多くの版を重ねた。同じく大正に入って他の自伝的作品も初訳が出て、ルソーの影響は従来の民権思想界から文学の世界に移って行く。おそらくは明治末年から覇を称えた自然主義文学の「告白」的志向もそれを迎える風潮を作ったに違いないが、その一方の雄である島崎藤村は、すでに英訳でルソーの諸作を知り、中でも『告白』にもっとも心を動かされた。 本稿では、藤村の『破戒』、『新生』といった従来影響が指摘されている小説を中心に藤村におけるルソー像を再検討する。

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