著者
金菱 清
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.12, pp.104-113, 2013-05-18

何万にものぼる死者の行方は?未曾有の災害で家族の命を絶たれた遺族はどのように日常に戻っていけるのだろうか?本論文では、東日本大震災の被災者が集住する仮設団地において、"過剰"に住民が介入するかのようなコミュニティをとりあげることで、どのようにコミュニティが生を中断せざるをえなかった「彷徨える魂」を鎮めることができるのかについて、被災コミュニティの文化的・宗教的な装置の側面を社会学的に明らかにする。阪神淡路大震災後の仮設住宅では、孤独死やアルコール依存症者が発生した。この深刻な事態を教訓として、宮城県名取市の仮設住宅では、自治会レベルでさまざまな対策を講じてきた。それらの取り組みをまとめると、ある意味「過剰な」コミュニティ運営をしている自治会が浮かび上がってくる。ここで過剰なコミュニティ運営とは、個人の生について住民組織が過度なまでに介入していることを指す。ただし、建物倒壊による圧死が死因の多数を占めた都市直下型地震の阪神淡路大震災とは異なって、東日本大震災では津波特有の遺体の見つからない行方不明者が多い。この過剰なコミュニティ運営は、生死のわからない彷徨える魂に対処する(ホカヒする)ための文化的社会的装置であると考えられる。本論では、大規模災害で生じる無念な「死」に対して、民俗学・宗教学とは異なる視角から、コミュニティの役割について社会学的に探ることを目的とする。そのことを明らかにすることによって、犠牲者を未だ彼岸の「死者」として扱えず、此岸に残された人びとの社会的生に対する積極的な位置づけをおこなう。

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