- 著者
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全 卓樹
- 出版者
- 特定非営利活動法人日本シミュレーション&ゲーミング学会
- 雑誌
- シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.1, pp.16-26, 2011-06-25
- 被引用文献数
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本稿では筆者の研究を中心に,量子ゲーム理論の現状レヴューを行う.量子ゲーム理論とは,通常のゲーム理論の戦略を表現する連結確率を,ヒルベルト・ベクトル(量子波動関数)から生成される量子連結確率で置き換えて拡張したものである.量子連結確率には量子的エンタングルメントに由来して,通常の連結確率にはない環境パラメータが含まれている.量子戦略の内実を精査することで,そのなかに通常の戦略を環境パラメータで変形した修正された擬古典戦略と,量子干渉に由来して古典戦略としては決して表せない純量子的成分との,二つを見出すことができる.前者には例えば利他的戦略が含まれ,これがディレンマ・ゲームの量子的な改善とされるものの物理的説明を与える.後者は多くの場合小さな補正項を提供するだけであるが,ハーサニィ型不完備情報ゲームにおいて擬古典的な寄与を消去すると,ナッシュ均衡利得全体をベル不等式の破れ分だけ与えることが示せる.量子ゲーム理論の数理的進化生物学への適用可能性についても論じる.