- 著者
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陸 艶
- 出版者
- 佛教大学
- 雑誌
- 佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, pp.19-34, 2014-03-25
長年、日本近代文学と中国との関わりを視点として研究してきた私は、故郷の蘇州にある寒山寺に縁があったという「寒山拾得」が日本近代文学に度々登場していたことを知った。また、文学に留まらず日本の禅画や謡曲などにも多くとりあげられていることを知った。そこで、中国では既に忘れ去られている「寒山拾得」が、なぜ日本で脚光を浴びたのかについて、その実態を調査し、「寒山拾得」の日本近代文学に与えた影響を研究した。まず、「寒山拾得」の日中像の差異について検討するために日本文学の古典に遡り、その背景を調査した。その上で、森.外をはじめとして、日本近代文学の著名な作家による「寒山拾得」の捉え方を調査し、中国の「寒山拾得」との比較検討を行った。その結果、日本文学における「寒山拾得」像には、日本独自のイメージで描写されていることが明らかになった。中国での「寒山拾得」は、道教思想のイメージで表現され、仙人とも言われているが、日本近代文学に表象された「寒山拾得」とは、日本で長年の間に育まれた仏教思想・禅思想の形象化を担って書き記されているのであった。また、「寒山拾得」が、日本の中では俳画にも出没し、陶器にも描かれるなど、文学以外にも日本文化の中に広く浸透していることが明らかになった。