著者
宇城 輝人
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.54-63, 2015

本稿は、反レイシズムのありようが第2次大戦後に大きく変化したことをふまえ、その戦後反レイシズムの特質を理解するために、歴史的起源にさかのぼって、その政治的・理論的な含意を考察する。ふたつの対象の検討を試みる。第1に、戦後反レイシズムの強い動機となったナチズムに対抗する3つの対抗運動の試みを紹介し、その特質を考察する。(1)イグナツ・ゾルシャンの反レイシズム・ネットワークとシオニズム。(2)フランツ・ボアズが主導した「科学者たちの宣言」をきっかけに広がったアメリカの大学人世界と学会による公式見解を表明する運動。(3)左派の遺伝学者たちが優生学の立場からナチズムを批判した「遺伝学者たちの宣言」。第2に、戦後まもなくユネスコが開始した反レイシズム・キャンペーンの出発点であるふたつの声明(1950年、1951年)について考察する。そこには、人種の概念の大きな転換と、それに連動して人間集団にかかわる差異についての考えかたの変化があり、それが戦後反レイシズムの核をなしていることが理解される。戦後反レイシズムは、「人間と人間集団の差異を肯定するための普遍性」を支えるメタ政治的な制度として特徴づけることができる。そのような差異を肯定する普遍的なメタ政治への懐疑あるいは挑戦、その制度化されたメタ政治の綻びという視点から、現代のレイシズムを捉えることができるのではないか。

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