著者
竹田 聡
出版者
日本財務管理学会
雑誌
年報財務管理研究 (ISSN:09171738)
巻号頁・発行日
no.26, pp.101-107, 2015-05-01

1. 本稿では,まずMPT(現代ポートフォリオ理論)に基づくインデックス運用を実践するための株式ポートフォリオとはどのようなものかを考察し,その上でグローバル・マクロ投資戦略を巡る問題を考察する。その結果,ETF(上場型投資信託)を用いたグローバル市場ポートフォリオを提示し,この10年間の新興国の株価高騰は特異な例外的事象であったことを指摘する。2. MPTに基づくインデックス運用とは,たとえばTOPIX連動型のインデックス・ファンドを指すわけではない。株式市場とは単一の国の株式市場ではなく,世界の株式市場であり,市場ポートフォリオとはグローバル市場ポートフォリオを指す。したがって,MPTによれば,世界中の株式市場の各銘柄を,その時価総額で加重して分散投資を行うインデックス運用こそ最も優れた株式投資法ということになる。3. カン[2008]は日本においてETFによる資産運用を先駆的に提唱し,「投資とは,未来の変化にお金を託すこと」であると主張している。そうした発想から,カン[2008]はETF投資の資金配分比率を,米国25%,米国以外の先進国25%,新興国50%とすることを提唱している。具体的には,投資資金の配分比率をiシェアーズCore S & P 500(IVV)に25%,iシェアーズMSCI EAFE(EFA)に25%,iシェアーズMSCI Emerging Markets(EEM)に50%とすることによって高い投資パフォーマンスを実現しようとする。これは新興国の経済成長を背景とした新興国の株価上昇によって,2030年までには新興国の株式時価総額が先進国のそれに匹敵するものとなることを想定した投資戦略である。4. カン[2008]の提唱するグローバル市場ポートフォリオは,未来の世界経済や株式市場を予測するマクロ投資戦略を取り入れたポートフォリオである。したがって,MPTによる経済学的に最も合理的な株式投資法とは異なる。ポートフォリオの投資資金の配分比率をIVV 45%,EFA 45%,EEM 10%とするならば,それはほぼMPTに基づくインデックス運用となる。5. 2000年代は新興国経済の躍進を背景に新興国の株式市場が拡大した。すなわち,ヘッジファンドなどの海外主体が低金利で調達した円資金をドルに転換して,米国金融市場をはじめとする高金利の金融市場で運用する円キャリートレードが行われた。04年以降は巨額の経常収支黒字を稼ぐ中国がグローバル投機マネーの供給者に加わり,巨大化した投機マネーはコモディティ(一次産品)市場に流れ込み,原油をはじめとする資源価格を高騰させた。6. 1998年からの米国株高やその後の資源バブルが発生した要因として,米国の財政収支の黒字化が挙げられる。すなわち,米国の財政収支が98年度におよそ30年ぶりに黒字化したため,新規の米国国債の発行が減少したのである。このため,経常収支黒字国からや円キャリートレードによって米国に流入したグローバルマネーは,米国の国債市場では消化できなくなり,当初は米国株式市場に流れてITバブルを引き起こす。その後,コモディティ市場に流れ込み資源価格を高騰させ,さらに米国不動産市場に流入してサブプライム問題を準備し,同時に2000年代の新興国株式市場の拡大をもたらした。7. この意味で,この10年の新興国株式市場の拡大は,グローバル・インバランスの拡大や中央銀行の金融緩和がもたらしたグローバル投機マネーによるものである。FRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和の段階的縮小が進み,2014年10月にはQE3(量的緩和第3弾)が終了するなかで,新興国の株価上昇を今後も持続的なものとみることは困難である。つまり,この10年の新興国の株価高騰は,特異な例外的事象であると思われる。

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こんな論文どうですか? グローバル市場ポートフォリオとマクロ投資戦略(竹田 聡),2015 https://t.co/Z6N8yq4ATa 1. 本稿では,まずMPT(現代ポートフォ…
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