著者
浜本 一典
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.521-544, 2015

宗教多元主義はキリスト教神学から生まれた思想であるが、これをイスラーム的に構成し直し、異教徒との共存を説くムスリムが増えている。その中には、来世における異教徒の救済可能性を主張する者と、そのような議論を避けて現世的問題に特化する者がいる。例えば、ペレニアリストでもあるナスルは、伝統宗教の多様性を神の意志に帰し、「相対的絶対」の理論により他宗教の真理性を認める。しかし、この立場は、ムスリムの間であまり支持されていない。イスラームが他宗教に優越するという大方のムスリムの信念に反するからである。これに対し、今日有力なのは、現世での市民権を論じる多元主義である。例えば、カラダーウィーは、信仰に対する賞罰は神のみに委ねられるとして、イスラーム国家における信教の自由の保障と宗教的差別の廃止を訴える。だが、イスラーム国家という前提そのものが多元主義と矛盾するとの見方もある。このように、市民権論においても、救済論と同様、イスラームの優越性と多元主義との衝突が問題となっている。

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