- 著者
-
高橋 康史
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, pp.100-114, 2015
本稿の目的は,犯罪者を家族にもつ人びとが,いかにして自己の体験を語るようになるのかを描き出し,彼/彼女らが実践するスティグマ対処の手段の1つとしての役割距離とそのメカニズムを明らかにすることである.したがって,犯罪者を家族にもつ人びとへの支援に関する研究と異なる視点から,彼/彼女らの経験に接近する.具体的には,これまでの研究で議論されていない犯罪者を家族にもつ人びとの体験の語り得なさを乗り越える過程を捉えることを目指し,彼/彼女らの語りを事例として役割距離の観点から検討した.その結果,彼/彼女らは,加害者の家族として自己を振る舞えるようになるというスティグマの受容を経ることで,沈黙の状態から脱却していたことが明らかになった.彼/彼女らは,異質な他者や同じ属性をもたない他者との同質性の発見や,同じ属性をもたない他者との関係性を通じた自己の内にある普通さの想起によって,加害者の家族としての自己との距離化を実践し,スティグマが自己の役割の一部でしかないことを自覚していた.以上のことから,彼/彼女らの「回復」において,同じ属性をもたない他者との出会いや相互作用が重要な意味をもつことがわかる.