著者
坂口 周
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.32-43, 2010

内田百間「サラサーテの盤」(一九四八)は、一見して日常的な世界によって構成されている。初期の小説群のように「夢」の非現実則に支配された荒唐無稽な印象をもたらさない。しかし同時に、死者と生者の境界線が絶えず引き直されるような危うさによって、その空間の遠近法は成立ぎりぎりの臨界にさらされている。本稿は、このテクストの構造を形成する核であり、かつそのような構造の不安定さを強いる<謎>としての「女」の位置を探るものである。特に、おふさ、きみ子につづいて、不思議な存在の異常性を放っている「奥様」という第三の「女」の意味を明らかにする。

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