- 著者
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山口 響史
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.4, pp.1-17, 2015-10-01
本稿は,近世のモラウ・テモラウを観察し,(1)迷惑を表す用法と(2)(サ)セテモラウの成立プロセスを明らかにする。形式上(1)には,<マイを後接する単文の例>と<複文の条件節での使用例>の二つが存し,前者は近世前期から見られるが,後者は近世後期からしか見られない。後者の形式面での成立は,テモラウ全体の条件節での使用増加の流れに沿うものである。さらに,(1)の成立は,テモラウ成立当初の「主語が事前に働きかける」用法から「主語の事前の働きかけのない」用法まで表すようになったことの中で説明可能であり,本動詞モラウの「乞う」意味の希薄化の帰結と捉えられる。(2)の成立は,「与え手の動作における他動性」が減じていく前接動詞の取り得る範囲の拡がりの一現象面であり,本動詞モラウにおける対象物の抽象化の帰結と捉えられる。本稿で観察されたテモラウの変化は,使役的な性質から受身的な性質へという方向性を持つものであると指摘する。