著者
上原 こずえ 上原 こずえ
出版者
琉球大学移民研究センター
雑誌
移民研究 (ISSN:18810829)
巻号頁・発行日
no.5, pp.67-86[含 日本語文要旨], 2009-03

本論文は,1970年代の沖縄における金武湾闘争,そしてハワイにおけるカホオラヴェの運動に着目し,抵抗運動における「伝統」文化の実践に関する新たな視点を提示する。金武湾闘争は沖縄の復帰後の1973年に始まり,金武湾の宮城島―平安座島間の埋立て,石油備蓄基地・石油精製工場の建設に反対した。一方のカホオラヴェの運動は1976年に起こり,1941年の日本軍による真珠湾攻撃から始まった,米軍によるカホオラヴェ島での軍事射撃・爆撃訓練に反対した。両運動は,太平洋で隔たれた沖縄とハワイで組織され,異なる問題を扱っていたが,そこで表出した思想や実践には連続性が見られる。金武湾闘争とカホオラヴェの運動における「伝統」文化の実践は,「伝統の創造」論に重要な問題を提起する。1980年代以降,太平洋諸島の民族主義運動における「伝統」文化の語りや実践が集団内の権力構造を確立し維持する,という批判が「伝統の創造」論をもってなされた。この主張に対し,さまざまな立場からの批判がなされた。本論文では,「伝統の創造」論による民族主義運動への批判が,抵抗運動における「伝統」文化の意義を認識できていないことを指摘し,その意義を金武湾闘争とカホオラヴェの運動における「伝統」文化の実践を分析することで提示する。本研究は,筆者の移動者としての個人的な経験から生まれた問いや,比較の視点に基づき議論を進める。沖縄からハワイに移動し,そこで知りえたカホオラヴェの運動と,筆者のホームである沖縄の金武湾闘争との間にはどのような接点があるのか。本論文では第一に,「伝統の創造」論による太平洋諸島の民族主義運動に対する批判と,それに対する反論を概観する。第二に,金武湾闘争とカホオラヴェの運動の歴史的な背景をふまえ,機関誌,その他の未出版資料,聞き取り調査の記録から,両運動における「伝統」文化の実践とその意義を検証する。研究結果として,次の三点を明らかにした。金武湾闘争とカホオラヴェの運動では,「住民」や「オハナ」という運動参加者個々人の行為者としての役割が強調された。また両運動では海や土地の重要性が「伝統」文化の実践を通じて主張され,開発や軍事訓練への抵抗とされた。さらに両運動では,「伝統」文化の実践が,運動参加者間の結びつきを強め,援農活動や共同体の自治を模索する動きにつながり,他の島々における抵抗運動との連帯を生んだ。

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