- 著者
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蘇 徳昌
- 出版者
- 奈良大学
- 雑誌
- 奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
- 巻号頁・発行日
- no.30, pp.15-44, 2002-03
天才的な詩人・作家・文学者である郁達夫は中国文学革命の主将で、中国近代文学の先駆者であったが、その生涯は悲劇の連続であった。多くの国民或いは文学界から頽廃作家などと誹謗され、友や妻に裏切られ、母親・兄は戦争中に悲惨な死を遂げ、自分自身も何と終戦直後に日本憲兵に殺害されてしまった。その彼が日本人は中国人を蔑視していると憤慨しながらも、日本人を心から愛し、日本文化を絶賛し、傾倒した。日中戦争で日本は本来の美しい姿を失い、歪んでしまった。軍部は戦争を起こした張本人である。軍国主義の高圧により、文学は大々的に後退し、絶滅の深淵に陥っている、と指摘し、最後まで闘い続けた。彼は日本人的な中国人であり、その日本観は愛憎交錯したものである。