著者
辻本 弘明
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.15, pp.p18-35, 1986-12

荘園制における「職」と「知行」の在り方は、中世の土地領有にかかわる法律関係を示す重要な指標であるといわれる。中田薫博士は比較法史の方法によって、「知行」をGewereに相当するものとした。これは事実関係としての占有を、法律関係として認定したものと解されているのである。そして、「職」は荘園制の構造の下では、荘園付属的下級領主特権とみられるものであり、その職の対象である土地の商品化に伴い、私的移譲が頻行する事態になると、かゝる土地を知行している制度上の標識であった「職」は法史の上では、不動産物権と理解されるようになった。さらに、知行の効力の面からみても、その発展過程をたどると、これは占有としての事実関係が法律関係即ち、知行となったから、当然のこととして、権利の推定性を受けることになり、また、知行不可侵の原則的効力の発生乃至強化をもたらす。かかる関係から、「職」も単なる標識であったものが、知行制度の発展の過程の中で独立した権利=不動産物権となったのである。かくて知行の対象である土地の自由移譲の盛行は知行制度の発展を斎らし、ひいては、在地領主の自立を促がし、同時に、それは土地の封土化を斎たらす結果となる。武家法における「年紀制」(時効)は、知行の内容が荘園領主との間で、競合するに及んで、在地領主権の権原(由緒)として成立してきたものである。しかし、鎌倉期の「当知行」は、年紀制を媒介としてしか本権に準ずる権原(由緒)として承認されてこなかったという点は見逃せない。しかし、「年紀制」は、「当知行が在地領主制の中に生成してきた慣行の中で成立させて来た在地領主権の存在を合法化する法慣行的規範として認知された法意識である。」という意味において領主制の歴史の中で、一つの劃期を形成するものであった。かくて、知行が自由移譲性(相伝性) を帯びてくるにつれて、「職」との関わりの中で、改変されてゆく面と、知行の事実関係的性質が法律関係化して、知行保護の発展史の究極である「当知行」の法制化してゆく動向との二つは、知行制研究の中では重要な検討事項であるのは多言を要しない。以下先学諸氏の研究を再吟味し、これらの諸点に考察を加えたい。

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CiNii 論文 -  日本中世封建社会の法構造について--「知行」の発展を中心に http://t.co/aq8QnGvio0

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