- 著者
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森本 茂
- 出版者
- 奈良大学
- 雑誌
- 奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
- 巻号頁・発行日
- no.17, pp.p26-34, 1989-03
『大和物語』(為家本)一三七段の本文は次のようである。志賀の山越えのみちに、いはえといふ所に、故兵部卿の宮、家をいとをかしうつくりたまうて、時々おはしましけり。いとしのびておはしまして、志賀にまうつる女どもを見たまふ時もありけり。おほかたもいとおもしろう、家もいとをかしうなむありける。としこ、志賀にまうでけるついでに、この家にきて、めぐりつつ見て、あはれがりめでなどして、かきつけたりける、かりにのみくる君まつとふりいでつつなくしが山は秋ぞ悲しきとなむ書きつけていにける。以下、「志賀の山越え」の「いはえ」について考察したいと思うが、まず志賀の山越えの道順を明らかにしておく必要がある。