著者
辻田 右左男
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.5, pp.p32-47, 1976-12

ここ数年来,筆者はイギリスの作家ダニエル=デフォー DanielDefoe に大きな関心をもち,可能な範囲で,彼の著作や評伝の入手につとめて来た. 1人の地理学徒として英文学の領域に足を踏み入れるのは場違いであるが,Defoeの作品に,17~18世紀のイギリスの地理学が集約的に投影されていると信じたからである.筆者がDefoeに興味をもちはじめたのは,小・中学校時代机を並べた竹馬の友大塚久雄氏の示唆によるところが大きい.大塚氏は Defoe のロビンソン=クルーソーを経済人(経営者)としてとらえ,ロビンソンが無人島においてイギリス入らしく囲い込みをしたり,借方貸方のバランスシートをつくっていたとし,日本の社会に新しいロビンソン像を移植した.それだけでなく, Defoe の『ブリテン周遊記』が産業革命前夜のイギリスの産業・農村の状況,とくにマニュファクチャーの様子を生き生きと描写していると指摘,わが国の経済史学に Defoe 研究の重要性を導入した.大塚氏はまた Defoe の産業都市計画にも注目しているが,経済史の側からみて興味のある Defoe の著作は,もしかしたら地理学に対しても何かを語りかけているのではないか.こういう期待が筆者を Defoe に drive させる1つの動機となった.その後,イギリスの地理学者 Baker が「ダニエル=デフォーの地理学」という論文を公にしているのを知り,これに勇気づけられ,1974年6月,人文地理学会地理学史部会で「ダニエル=デフォーと地理学」と題し,中間報告の形で発表を試みた.京都大学楽友会館で行なわれたこの例会には,恩師小牧実繁博士はじめ,室賀信夫・西村睦男・海野一隆・高橋正など,わが国地理学史の代表的学者が出席され,会後,貴重な御示教に与った.しかし筆者としては,この例会後,もう一度 Defoe の地理学を再掘するつもりは毛頭なかった. ただ「人文地理」(26巻5号)に掲載した研究発表の要旨に,1,2重大なミスがあることに気付き,機会があれば,これを訂正したいとは思っていた.

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