- 著者
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井上 薫
- 出版者
- 奈良大学文学部文化財学科
- 雑誌
- 文化財学報
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.1-11, 1982-03
慈恩寺の大雁塔(七層、博造、唐代)は鐘楼(三層、木造、清代)とともに西安(古都長安)の看板とされており、西安に旅行すると、旅行社の係はツァーの客を先ず鐘楼と大雁塔に案内する。西安を紹介するパンフレットにも、鐘楼が表紙に、大雁塔が裏表紙に美しいカラーで印刷されている。鐘楼は西安の中心部にあり、ここから東西南北に街路(東大街・西大街・南大街・北大街)が走っており、大雁塔は鍾楼から南南東の方角に建てられていて、西安駅からならば解放路をまっすぐに南進し、平和門を過ぎ、雁塔路を南に約四キロ進んで突きあたるところが慈恩寺である。鐘楼や大雁塔にのぼって西安の市街や郊外をながめると、その景色はすばらしい。鐘楼と大雁塔は西安の史跡・名所であるほか、ここの頂上からほかの史跡や名所を遠望することができる。慈恩寺は唐の第三代の天子高宗(六四九ー六八四、在位)がまだ皇太子であったとき、母の文徳皇后の冥福を祈りその恩にむくいるため、貞観二f二年(六四八、日本の大化四年)に階代の廃寺を復興して建てた寺であり、建立の趣旨によって慈恩寺と名づけられた。