出版者
福岡医学会
雑誌
福岡医学雑誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.7, pp.311-318, 2005-07-25

感性融合創造センターは,芸術工学院が九州芸術工科大学時代から培ってきた「技術の人間化」に集約される理念と科学的手法を九州大学の各分野の研究へ応用・展開させることを目的として,平成15年10月の九州大学と九州芸術工科大学の統合時に設置された.第1回目のシンポジウムは平成16年3月に多くの部局が設置されている箱崎キャンパスの国際交流センターで開催したので,第2回シンポジウムは医学・歯学・薬学の各研究院と病院を擁する病院キャンパスの医学部百年講堂で開催することにした.平成17年3月開催の本シンポジウムは,「ユビキタス社会と感性」と銘打って,感性に関わる分野で活躍中の講師の方々に下記のような題目でご講演頂き,議論した.・都甲潔(九州大学大学院・システム情報科学研究院・教授)・小早川達(産業技術総合研究所・脳神経情報研究部門・研究官)「人間の味覚・嗅覚の脳内情報処理」・飛松省三(九州大学大学院・医学研究院・教授)「ユビキタス映像社会における脳の健康」・竹田仰(長崎総合科学大学・人間環境学部・教授)「VR環境と人間の心理・生理」・特別講演合原一幸(東京大学・先端科学研究所教授)「芸術と科学の融合」本書は,各講演内容を論文としてご提出頂き,取り纏めたものである.感性は,古くから匠の技に代表されるような美術工芸品だけでなく,日常品の中にも人々の生活に潤いを与える重要な要素として活かされてきた.しかし,感性を科学的に解析し,その成果を技術開発に応用する動きが大きくなってきたのは,比較的最近のことである.1970年代,製品開発に感性工学手法が取り入られるようになり,1990年代には国家プロジェク等として心理学と情報科学が融合した感性情報処理研究が盛んに行われたが,感性そのものに十分踏み込んだ研究がなされたとは言い難いようである.五感に代表される味覚,視覚等の感覚については,心理物理学や生理・生物学,医工学の立場から解析が進められている.とくに,嗅覚のメカニズムについて,分子生物学的手法により,においの受容体遺伝子を突き止め,受容体から脳へにおいの刺激が伝わる仕組みを解明した米国コロンビア大学のリチャード・アクセル教授とフレッド・ハッチンソンがん研究センターのリンダ・バック博士が16年度ノーベル医学生理学賞を受賞したことは特記すべき事である.本シンポジウムにおいても,味覚・嗅覚・視覚について,わが国の第一線の研究者による解析結果とその応用技術について紹介がなされている.一方,感性そのものについては,いろいろな立場から意見・見解が提示されているが,未だ共通認識が確立されたとは言い難い状況にあると思われる.感性が呼び起こされるメカニズムについても人間科学,心理学,生物学,情報科学等,いろんな切り口から研究が行われてきた.九州大学においても,部局を越えて研究者が相集い,学外からの研究者も交えて研究が進められている.本シンポジウムを契機として,感性の本性を知る上で重要な役割を担いうる医・歯・薬系の研究者の参画により,感性研究が一層展開することを念願する.

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