著者
吉原 直毅
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.253-268, 2001-07

本論の目的は70年代の数理マルクス経済学の展開によって,マルクス派搾取理論がいかにその含意の転換を迫られてきたかを,現時点の現代社会科学の到達点から鑑みて考察する事にある.その主要な帰結は,労働価値概念に立脚するマルクス主義の古典的な搾取理論解釈は,まさに数理マルクス経済学の反証可能な手続きによる検証によって,否定されたという事である.主な論点は,(1)マルクスの基本定理及び,森嶋―シートン方程式,(2)「マルクスの総計一致2命題」,(3)「価値法則」の検証からなる.これらの分析結果は,労働価値が市場の均衡価格決定の説明要因たり得ない事,及び正の利潤の唯一の源泉としての労働搾取という含意の完全な喪失を意味している.さらに,正の利潤を資本家が取得する事も,私的所有を前提する限り,剰余生産物生産可能性を有している資本財が社会の総労働人口に比して希少性を有する下では何ら不当なものとは言えないことも示され得る.

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