著者
新井 泰弘
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-27, 2012-01

本稿では音楽市場における民間機関の著作権保護についてゲーム理論的なフレームワークを構築し,作曲家が楽曲の違法利用を防止するために自発的に著作権協会を組織した場合,社会厚生にどのような影響を与えるか考察を行った.日本音楽著作権協会(JASRAC)が現実に作曲家との間に締結している信託契約を考慮に入れ,作曲家の自発的参加と協会内における利潤分配交渉を含む2段階ゲームを定式化することで次の結論を得ることができる. まず,取締費用がそれほど高くなく,著作権協会に参加する作曲家のパフォーマンスの差が十分大きい場合,著作権協会の存在により社会厚生が増加することが示せる.次に全作曲家が著作権協会に参加するならば,著作権協会が楽曲使用料を統一に設定する方が,著作権者に楽曲利用料を決定させるよりも社会的に望ましい事が示せる.We consider non-governmental copyright protection in a music market in a game theoretical framework. Music composers voluntarily form a non-governmental association to prevent illegal uses of music and to impose music fees collectively. We find that the formation of an association increases social welfare when differences in composers' abilities are sufficiently large. We also show that a uniform pricing rule, as currently employed by the association in Japan, is more desirable from the social point of view than a non-uniform pricing rule whereby members can set music fees individually to maximize their private profits.
著者
新井 泰弘
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-27, 2012-01

本稿では音楽市場における民間機関の著作権保護についてゲーム理論的なフレームワークを構築し,作曲家が楽曲の違法利用を防止するために自発的に著作権協会を組織した場合,社会厚生にどのような影響を与えるか考察を行った.日本音楽著作権協会(JASRAC)が現実に作曲家との間に締結している信託契約を考慮に入れ,作曲家の自発的参加と協会内における利潤分配交渉を含む2段階ゲームを定式化することで次の結論を得ることができる. まず,取締費用がそれほど高くなく,著作権協会に参加する作曲家のパフォーマンスの差が十分大きい場合,著作権協会の存在により社会厚生が増加することが示せる.次に全作曲家が著作権協会に参加するならば,著作権協会が楽曲使用料を統一に設定する方が,著作権者に楽曲利用料を決定させるよりも社会的に望ましい事が示せる.We consider non-governmental copyright protection in a music market in a game theoretical framework. Music composers voluntarily form a non-governmental association to prevent illegal uses of music and to impose music fees collectively. We find that the formation of an association increases social welfare when differences in composers' abilities are sufficiently large. We also show that a uniform pricing rule, as currently employed by the association in Japan, is more desirable from the social point of view than a non-uniform pricing rule whereby members can set music fees individually to maximize their private profits.
著者
伊藤 隆敏
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.97-113, 2003-04

2001年7月に公表され,その後,定期的にアップデートされている為替介入のデータ(観察期間,1991年4月から2002年3月)を用いて,利益,介入効果などの側面について考察を加える.この期間,125円よりも円安(円ドルレートが,126円以上)の水準での円売り・ドル買いの介入実績はなく,125円よりも円高(円ドルレートが,125円以下)の水準での円買い・ドル売りの介入実績は無かった.日本の通貨当局は,ドルをドル価値が安いときに購入し,高いときに売却していた.介入による売買益,評価益,金利差益の利益合計は,11年間で10兆円近くに上る.介入直前の為替レートの変化に比較して,介入直後の為替レートの変化が,介入の意図した方向に動いていたかどうかの介入の効果を検討すると,おおむね,意図された効果が得られていたといえる.回帰分析によると,1990年代の後半は,介入が統計的有意に為替レートに意図したように影響していることがわかった.効果の大きさは,アメリカと日本の同時介入が,通常の日本の通貨当局による単独介入よりも,20-50倍の効果を持つ.日本の通貨当局による介入のうち,一週間以上の間を置いたあと最初の介入は,そうでない場合よりも有意に大きな効果を持つことが分かった.
著者
若森 章孝
出版者
千葉大学経済学会
雑誌
経済研究 (ISSN:09127216)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.295-319, 2012-12

デヴィッド・ハーヴェイは新自由主義の理論と実践の総体を歴史的に検討した『新自由主義その歴史的展開と現在』(原題『新自由主義小史』)のなかで,「未来の歴史家は,1978~80年を,世界の社会経済史における革命的な転換点とみなすかもしれない」(ハーヴェイ2007:009)と述べている。彼が1978~80年を歴史的な転換点と位置づけるのは,この時期が,サッチャー政権やレーガン政権の政策を通じて新自由主義が経済,国家,福祉や教育などの社会的領域,思考様式において支配的になる画期となったからである。しかし,この時期とそれにつづく1980年代および1990年代に実行に移された規制緩和,民営化,市場化,金融化といった新自由主義的経済政策に注目するだけでは,新自由主義国家の性格が「小さな政府」と国家の規制から解放された19世紀的な「自由放任」の政策であるかのように見えてくる。欧文抄録: p.431
著者
祝迫 得夫 古市 峰子
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.328-344, 2004-10

巨大企業エンロンの破綻と大手会計事務所アーサー・アンダーセンの消滅に代表される,近年のアメリカ企業における不正会計問題に関して,コーポレート・ガバナンス論の視点からの整理・検討を試みる.アメリカの不正会計問題は,一方でアメリカにおけるコーポレート・ガバナンスの変化,株主重視への流れの副産物としての側面をもっている.他方,より本質的な問題は,監査業務におけるゲートキーパー・モデルの破綻であり,その背景にあるのは大手会計事務所における監査業務とコンサルティング業務の利益相反問題である.サーベインス=オクスリー法による制度改革はこの問題の解決を試みたもので,ディスクロージャーの徹底と独立公共機関による監査制度のコントロールという2つの重要な要素を持っており,そのような改革の方向性は日本やEUにも波及している.しかし,業務の利益相反問題に関しては決定的な解決策が提示されたとは言えず,アメリカでのコーポレート・ガバナンス改革,会計システム改革がどのように進んでいくかに関しては,今後も注目が必要である.
著者
伊藤 邦武
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.134-146, 2016-04-22

アリストテレスの経済思想を,その代表的なテキストである『ニコマコス倫理学』と『政治論』の議論から検討する.彼の「交換的正義」の議論は次のように要約される.さまざまな商品には,それ自身の使用価値が内属しているが,この価値は互いに非通約的である.商品は他方,交換価値にかんして通約的となるが,この価値の基準となるのはそれらの「必要性」である.この必要性を量的に比較するための媒体となるために,貨幣が約束によって成立している――.この説にかんして問題になるのは「必要」という概念の意味と,それを媒介する貨幣が「約束」にもとづいて成立するということの意味である.前者の必要概念についてはこれまでの解釈において主として三つの理解が提出されており,近年ではこれを「その財を分配する者の社会における地位に従った必要」とする理解が有力となっている.しかし,後者の「約束」の意味についは必ずしも共有された解釈がない.本論ではこの意味の理解のために,後のヒュームがその道徳論で提起した「合意」論を活用するべきだと論じる.Aristotle develops his theoryof economic justice in Nicomachean Ethics and Politics. The theoryis interesting because his discussion of economic justice is connected to his larger concern about the relationship between the commensurable and incommensurable. Commodities are mutually incommensurable from the viewpoint of their use value but commensurable from that of exchange value. Theyare reduced to be mutuallycommensurable on the basis of "need (chreia)". The medium of this quantitative comparison is money, which is introduced by "convention (hypothesis)". There have been various interpretations concerning the meaning of "need", but little discussion about the meaning of "convention". I propose in this paper that Hume's analysis of convention in The Treatise of Human Nature could be profitably made use of for understanding the Aristotelian idea of convention.
著者
都留 康
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.314-327, 2006-10

本稿の目的は,自動車販売会社A社の事例を取り上げて,職能資格制度に基づく人事制度から成果主義的人事制度への変化の内容とその経済的帰結を分析することにある.分析の結果,以下の点が明らかとなった. A社は,人件費の変動費化の推進,ならびに年齢・勤続に応じた処遇から成果に応じた処遇と成果責任の明確化という理念に基づき,2000年に人事制度を抜本的に改定した.その内容は以下の3点からなっていた.① 職能資格制度の廃止と「職務ベース」システムの導入,とりわけバンドと職務ステージの組み合わせによる賃金制度への変更,② 基本給に積み上げる形の単純な業績給からドロー・ライン(基本給とみなし時間外手当の合計値)まではいっさい業績給のでない仕組みへの変更,③ 保有能力と個人業績を総合的に評価していた人事考課制度から個人業績特化型の人事考課制度への変更,ならびに業績考課結果による職務ステージの決定,がそれである. そうした人事制度改革は以下のような帰結を伴った.① 人事制度改革の前後で,特に40歳未満層での賃金格差の拡大が顕著になっている.② 制度改革による販売台数(客観的業績指標)の変化をみると,新車に関しては約28%,中古車に関して約25%販売台数が増加している.③ ドロー方式業績給の導入は,特に従来低業績であった社員の生産性を向上させている.④ 業績考課の推移をみると,下位の職務ステージでは上位の考課結果がつきやすく,上位のステージでは下位の考課結果が相対的に多い,というパターンが認められる. 以上の結果から,新たな人事制度の導入により,営業スタッフの個人業績を向上させるというA社の人事制度改革の意図はほぼ実現した結果となっていることが判明した.This paper examines the nature and the economic consequences of performance-oriented HR system reform at a large Japanese auto dealership. Company A, the auto dealer, changed its HR system in 2000. The main objectives were to reduce the rigidity of personnel costs and to put more emphasis on individual performance rather than seniority and experience. Three major components of the reform were as follows: (a) the company transformed the wage system from a skill-based to a job-based system; (b) the company changed the commission system for the sales force from a linear compensation scheme to one kinked around the "draw" line; and (c) the company modified the performance rating system from conducting an overall evaluation of each employee's ability and performance to focusing on utilizing evaluations of individual performance. Econometric analysis of the personnel data has revealed the following points. First, following the reform, wage differentials increased for employees under forty years of age. Second, productivity effects amounted to a 24-percent increase in new car sales and a 12-percent increase in used car sales. Third, the reform had a stronger motivating effect on the new car sales force, while it had little motivating effect on the used car staff. Fourth, the new performance rating system strongly tended to generate improved results for most employees in lower-level job ranges while lowering results for poorly performing employees in higher-level job ranges, thus reducing wage rigidity for higher-paid staff. These findings indicate that Company A's new HR system has been effective in motivating and stimulating greater effort by the new car sales force. However, the productivity effect is not clear for the used car staff, and the higher draw line has negative effects on sales volume. Therefore, while A's transformation has proved partially successful, it has been accompanied by unintended side effects.
著者
雲 和広 森永 貴子 志田 仁完
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.74-93, 2008-01

本調査研究の目的は,帝政ロシア及びソ連・新生ロシアの統計制度・人口統計整備手法を概観すると共に,ソ連崩壊後の新生ロシア領域に基づく人口統計を一次史料に基づいて構築すること,そして帝政ロシア末期から新生ロシアに至るまでの長期的人口動態を把握することにある.先行研究における帝政ロシア期を扱うものとソビエト以降のそれとの間の断絶は大きく,そして原資料に依拠した研究は極めて少ない.最初にロシア帝国における人口統計制度の整備過程に焦点を当て,続いて革命後のソビエト・ロシア,そして新生ロシアの人口統計を見る.主眼を置くのは,(1)一次史料に依拠して100年の期間で獲得可能な限りの統計を揃える,(2)現ロシア連邦の領域への統一を可能な限り試みる,という点である.通史的にロシアの発展を描く上での最も基礎的な情報を揃えることを旨とするものである.The aims of this study are (1) to overview statistical systems and the methods of maintaining population statistics in the Russian Empire, the Soviet Union and the Russian Federation, (2) to provide population statistics in territorial unit comparable to the Russian Federation based on primary materials, and (3) to take a general view of long-term population dynamics from the late Imperial era to the new Russian Federation. The gap between previous researches dealing with population during the imperial periods and that which examines the period after the October revolution is very large, and few studies utilized primary data in investigating population figures of the imperial era.First, this study focuses on the institutional background of maintaining of population statistics in the Russia Empire, and then examines the population statistics systems after the establishment of the Soviet government. In estimating population and collecting archive data, this paper devoted efforts to utilizing primary materials consistently, and to adjusting all the territories in accordance with those of the Russian Federation. Thus, this study provides a fundamentally necessary information for investigating historical development processes in Russia.
著者
谷本 雅之
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.p89-91, 1995-01
著者
富沢 賢治
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.77-82, 1968-01
著者
宮崎 義一
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.339-342, 1952-10
著者
神武 庸四郎
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.p381-383, 1980-10
著者
倉阪 秀史
出版者
千葉大学経済学会
雑誌
経済研究 (ISSN:09127216)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.85-113, 2002-06

This article contains two parts, one for identifying current issues concerning on sustainability and the other for proposing a concept of Sustainable Zone. In the first part, I will examine the meanings of sustainability and consider the issue as to avoid the J-shape curve in human population by maintaining enough resource bases for the considerable future. I will also check the availability of each resource and conclude that restructure of energy bases, switching from exhaustive resources to renewable ones, is needed. In the latter part, I will show why energy and resource policies are needed in local governments, and propose a concept of Sustainable Zone as an indicator for the transformation towards sustainable economy.