- 著者
-
玉 真之介
- 出版者
- 日本村落研究学会
- 雑誌
- 村落社会研究
- 巻号頁・発行日
- vol.38, pp.137-165, 2002-10
日本の農政は、一九七〇年代に入ると伝統的な集落(ムラ)の機能に注目しはじめ、七〇年代後半からその活用に乗り出した。それは知何なる背景と理由に基づくものなのか。この章はその考察存二つの焦点として、戦後に展開される農政の起源と構造を明らかにし、それが再編される過程で農政が二つの方向へと引き裂かれていっていることを論じる。この農政の再編には、「農業システム化」という言葉が重要な役割を果たしていた。それは地域農業の「人と土地」を統括的に再編成することを意図した言葉であったが、それがむしろ伝統的な集落(ムラ)の機能を農政に認識させ、借地による農地流動化に集落機能を活用する施策をもたらすのである。一方、「農業システム化」は、農業土木事業にも農村整備という新たな方向性を与えたものであった。しかし、前者の路線は、集落機能が実際の農地流動化にさほど役立たないことが明らかになるにつれて、むしろ市場競争を重視する路糠へと転換されていく。他方、後者は反対に農村の生活関連の環境整備を進める上で集落の役割を再認識するにいたり、むしろ集落の機能を再構築する「むらづくり」を政策の重要部分として取り込んでいく。本章では、そうした方向性を与えた主体として、建設計画学並びに生活改良普及員の活動に光を当て、それに積極的な評価を与えた。