著者
加藤 善子 Kato Yoshiko カトウ ヨシコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.1, pp.117-128, 1996-03

本稿は、文部省『学生生徒生活調査』(昭和13年)を手掛かりに、当時の学生の音楽趣味がどのようなものであったかを考察するものである。音楽は、昭和初期学生の多くが挙げる趣味であった。明治以来、音楽は文学などと同様、旧制高校をはじめ学生文化の中には成立しなかった趣味であったが、昭和初期に増加したのである。明治後期から昭和にかけて、学生の社会的構成の変化から新中間層出身の学生が増加したことや、学生数の増加や寄宿制度の廃止などにともなう学生文化の多様化がその一因であった。学生の出身階層や出身家庭の経済状態との関連をみると、スポーツは旧中間層出身の学生と、音楽と読書は新中間層出身で家庭が裕福な学生とそれぞれ関連が強く、スポーツと音楽の間に映画と美術鑑賞が位置する。また、多くの学生は、楽器などを積極的に演奏することはなく、レコードやラジオから流れてくる音で音楽を楽しんでいたことが、当時の資料や記録から推測される。音楽は都市新中間層出身の学生に結びっいた、バンカラ主義とも教養主義とも異なるところで発生した新しい趣味だったと考えられるのである。

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