著者
田中 文憲
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.40, pp.11-30, 2012-03

第1次世界大戦後、イギリスの国力衰退とともにロンドンの国際金融市場としての力も落ちた。しかし、ナチスの迫害を逃れてロンドンにやって来た一人のユダヤ系ドイツ人移民シーグムンド・ウォーバーグの活躍によって、ロンドンは再び国際金融センターとしての地位を取り戻した。彼はその類稀な先見性と禁欲的態度、権威をものともしない勇気、目標を定めれば最後までしかも完璧にやり遂げる強い意志をもって、金融世界に新たな境地を拓いた。シーグムンドはシティで初の敵対的企業買収をやってのけ既存のマーチャント・バンカーから反発を受けたが、ものともしなかった。また、「ユーロドル」の大量発生に目を付けた彼はその資金を利用して「ユーロポンド市場」を作り上げた。彼はまた誰も相手にしなかった日本に注目して「ユーロポンド」を通して日本経済発展に貢献し、日本政府から勲一等瑞宝章を贈られた。しかし、シーグムンドはS.G.Warburg&Co.の資金不足と販売力不足に悩み、やがて他行との合併を模索し始める。ところが"haute banque"としての特性を保ちながらMorgan Stanleyを目指すという彼の夢は果たされないままシーグムンドは亡くなった。彼の死後、S.G.Warburg&Co.は拡大路線に走った。時はあたかも「ビッグバン」による規制緩和の最中であった。S.G.Warburg&Co.はジョバーとブローカーの買収の後、債券部門の拡大に乗り出した。しかし、資金力がついて行かず結局これがS.G.Warburg&Co.消滅の引き金を引くことになった。ロスチャイルド以外は、S.G.Warburg&Co.を初めすべてのマーチャント・バンクはその歴史的使命を終えて消えた。シーグムンド・ウォーバーグは真のそして最後のマーチャント・バンカーであった。

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