- 著者
-
渡辺 隆之
Takayuki Watanabe
- 出版者
- 創価大学経営学会
- 雑誌
- 創価経営論集 (ISSN:03858316)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, no.1, pp.1-22, 2009-02
*要約\n\n従来から売場に存在し既に多くの消費者に購入されている商品であれば,その情報は長期記憶 に内在化しており,購入の決定に関しては売場からの情報はさほど必要としない。したがって, 従来商品の課題は,事前情報を与えて非計画的な買物をより計画的にするか,もしくは,売場に おいて購入を喚起する情報提供,換言すれば,短期記憶の「情報取得」をより有効にする工夫が 必要となるであろうことは明白である。\n今回は特に低関与な従来商品を中心にセルフサービスの売場で消費者がどのように情報処理し ているのか,その実態を把握することを第一の課題として調査企画を立案し,実施した。\n購入のきっかけが「価格」要素に集中している場合,それは大きな問題である。何故なら, きっかけづくりが単一情報で成される場合,その情報を強化することしか,購入を促進できなく なるからである。様々なきっかけづくりを促進する情報提供によって,様々な売上改善策の実施 が可能となる。このことは,特に,EDLP 政策を推進し,また,NB より安価な PB を積極的に\n \n\n\n\n\n\n2 創価経営論集 第33巻第 1 号\n\n導入する小売業にとって必須の課題となる。 現状,既存商品の購入に関して,きっかけになっていたのは,「価格」要素のみで,「購入の\nきっかけ」と「購入理由」が明確に分かれてはいなかった。習慣化した購買では,商品に関する 消費者の長期記憶から引き出した情報を中心に意思決定が行われており,価格情報以外の売場情 報で購入のきっかけづくりがなされていないことを裏付けることとなった。\n「割安」を購入きっかけとする比率が高くなる要因として PB の存在があることは明白であっ た。こうした購入がさらに一般化すれば,「いつも買っている割安商品」を買い求める習慣が定 着し,NB は「特売されている時だけ」購入するのみになるので,チラシなどでその安さを訴求 する販売方法を採用せざるを得なくなる。これを打開する方法はただ一つ,安さを売り物にする PB のみでなく,「購買価値」を向上する様々なパターンで PB を展開し,NB も含めて,「カテ ゴリー全体の生産性」を向上する発想転換をしなければならない。\nところで, 1 商品の購入に要する時間を短くすることは,多品目を購入していただくことを命 題とする SM 業態にとって必須のことであるが,売場滞在時間の長い人に PB の購入者が多いこ とが判明した。このことは「割安」という判断さえ,スムーズに情報処理されていない可能性を 物語っている。SM 業態の命題がより多くの売場に立ち寄ってもらい,よりスムーズに,かつ, 追加的に購入してもらう(非計画的な購買を促進する)ことである限り,購入のきっかけと購入 理由を「価格」以外の要素でどれだけ実現できるかが重要であろう。\nまた,POP については,否定的な見解の中で添付されている現状ではなおさらその効果を引 き出し得ないであろう。今回の実験でも POP の掲載された場所は通過率も低く,視線の当たり にくい位置であったことと,その効果が明示的でなかったことは無関係ではない。売場の中で\n「機能する」POP の在り方を今後さらに探究する必要がある。