著者
槇林 滉二
出版者
尾道大学芸術文化学部
雑誌
尾道大学芸術文化学部紀要 (ISSN:13471910)
巻号頁・発行日
no.8, pp.69-78, 2009-03-25

一種の盾の両面を現すものであるかもしれないが戦前・戦中期の時代に対する文学の形相として三好十郎の文学に一つの象徴的な表象を見る思いがする。まさに文学や思想のあり方における相似的な対立あるいは類同についてである。以下、典型的な例を摘出、その意味するところと内実について少し触れてみたい。盾の一面に象徴されるものとは、三好十郎出発期の佳作「庇だらけのお秋」(昭3・8~11『戦旗』)であり、今一面は、戦中の力作「おりき」(昭19・3 「日本演劇』)である。私の全くの臆断にすぎないのであるが、私は二作を繋ぐ一つの存在として樋口一葉の文学、とりわけ「にごりえ」(明28・9)、「十三夜」(明28・12)を措定してみたい。少し心して探ってみたのだが、今の所、三好に樋口一葉や一葉の文学への言及を見出しえていない。そもそも三好には明治文学そのもの、とくに小説類に対する言及は乏しい。しかし、何らかの形で、この二作の質量を測る「物差し」の役割を果たすものが一葉のそれらにあるように思うのである。前者においては人物配置を含む内実の位相について、後者においてはただに主人公の名前の類似ということにすぎないのであるが。あくまで「物差し」の役割を考えつつ、それらの類同とそこから見えるものについて少し追ってみる。

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