- 著者
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村上 千鶴子
ムラカミ チズコ
Chizuko Murakami
- 雑誌
- 総合福祉
- 巻号頁・発行日
- no.3, pp.117-126, 2006-03
松尾芭蕉(1644-1694)と木喰明満(1718-1810)とは、各々江戸時代中期・後期に活躍し、共に貴重な文化遺産を創造した。俳句と木彫という異なる分野ではあるが、共に希有の芸術家として知られている。また、両者には類似点が多く、共に放浪の旅人として旅に生き、また妻帯することなく、人並み外れた超俗の人生を送った。しかしその現世への関わりには対照的ともいえる部分が存在する。つまり芭蕉は最初の紀行文「野ざらし紀行」において、「猿を聞人捨子に秋の風いかに」という句を読み、現実と理想の相克のうちに捨て子を置き去りにした。一方木喰明満は旅の先々で布教を第一義としながらも、医療・奉仕活動に精進し、その傍ら寝る間を惜しんで彫像を彫り続けた。それを、芸術家と宗教家の違いと片づける立場もあるが、むしろ彼らをしてその各々に分かったものについて、彼らの経歴を振り返りながら、また彼らの悟道の程度、芸術の相異に着目しながら種々の観点から考察を加えた。