- 著者
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古瀬 徳雄
- 出版者
- 関西福祉大学社会福祉学部研究会
- 雑誌
- 関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.2, pp.31-44, 2014-03
16世紀初頭の宗教改革以後,カトリックとプロテスタントにおいて相違点がいくつかあり,その一つに聖母マリアに対する信仰的態度がある.カトリック教会においては,聖母マリアは重要な崇敬の対象となり,祝祭日があり,数多くの音楽作品が生み出されている.プロテスタント教会は,マリアを信仰の対象ではなく,あくまで一人の人間であるという考え方である.従って〈アヴェ・マリア〉はプロテスタント教会では歌われない. しかし,プロテスタントであるバッハには聖母マリアを内容とする作品がある.それらは,いずれも聖書の中でも詳しい記述がされている「ルカ福音書」を基底とする《BWV10》《BWV147》《BWV243 マニフィカト》《マタイ受難曲BWV244》《ヨハネ受難曲BWV245》に出現している. 本論ではこれらの作品から,その受容の変遷を辿った結果,バッハは聖母マリアだけでなく,聖書に登場するマグダラのマリア,ベタニアのマリアなどの他のマリアたちも,芸術の対象としていることが判明した. 次に《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004》〈第5楽章シャコンヌ〉の音列が,妻のマリアの突然の死に対する追悼の音楽として成り立っているとする論も検証し,さらに《マタイ受難曲》《ヨハネ受難曲》におけるマリアたちに関連するレチタティーヴォの特性を取り上げて精査した.その結果,バッハの音楽創造の原点には,これらマリアたちに対するまなざしが反映され,その中に二人の妻たちをも刻み込み,彼自ら十字架を背負い作品を作り続けてきたことを証明する.