著者
今岡 典和
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.55-60, 2009-03

戦国期の地域権力の性格の捉え方には様々な見解があるが,近年は特に「戦国大名」の概念を求める立場と,守護の概念を重視する立場が並存している.本稿では,戦国期の地域権力における守護職・守護権の意義を重視する立場から,その意義について改めて論じ,さらに具体例として越前朝倉氏を取り上げ,朝倉氏における守護職・守護権の意義について検討した.朝倉氏は,応仁の乱の時に越前守護代となり,長享・延徳の相論で斯波氏との間で越前の支配権と自らの家格をめぐって争い,その後守護家として幕府から認定されるにいたる.戦国期においては,守護権(国成敗権)は守護家という家によって体現されるのが大きな傾向であり,朝倉氏も守護家として認定されることと越前の支配権は深く結びついていた.そこに,戦国期の地域権力の中でも守護家を独自の存在として捉える意義が存するであろう.
著者
藤岡 純一
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.45-55, 2012-03

Respect for human rights is one of the cornerstones of Sweden’s migration policy. Human rights apply throughout the world, irrespective of country, culture and association.Sweden has been accepting a large number of immigrants including refugees according to this basic idea. Different measures such as Swedish education, compulsory and upper secondary school, vocational training for adults and employment promotion have been taken for many years. Today about 14% of Swedish population is foreign-born.However, problems arise in educational achievements, employment rates, income they gain etc.This paper describes the status quo and problems of Sweden’s migration policy. New measures against the problems are also mentioned. So far there have been few papers in Japan on Swedish migration policy.Achieving a society which is characterized by mutual respect for differences within the limits set by the fundamental democratic values should be quite important for Japanese society in the future.
著者
中村 剛
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.37-44, 2012-03

社会福祉は本来,ケアの1 つであるにもかからず,法制度化された社会福祉の思想においては,ケアの倫理ではなく自立,権利(生存権),正義(公正)といった正義の倫理が語られる.しかし,ケアの倫理は正義の倫理の言葉では語られていない福祉思想を補い,福祉思想の明確化と体系化に寄与することができると考える.このような問題意識のもと本稿の目的は,ケアの倫理は正義の倫理の言葉では語られていない福祉思想の重要な側面を言い表していることを示すことである.考察の結果,ケアの倫理は,①自立イデオロギーからの覚醒,②正義の外部の者への眼差し,③〈選びえない〉現実への眼差しといった,正義の倫理に対する批判的機能を有すること,および,ケアの倫理には正義の倫理にはない「傷つき易い人間存在を気づかい,その人の呼びかけ(ニーズ)に応える」といった内容を有していることを明らかにしている.
著者
半田 結
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.31-42, 2016-03

本論は,『日本絵巻大成』を手掛かりに,わが国で最初期の絵である絵巻に描かれた病の絵を分析し,病の図像の意味と意義について述べ,病の図像は古代中世の我々の祖先が生き延びていくためには必要欠くべからざるものであったことを明らかにしている.絵画は仏教と共に伝えられたため,その歴史は,礼拝の対象である仏画として描かれることに始まる.平安後期になるとわが国独自の文字や絵の描き方が生まれる.このころから貴族階級や仏教関係者を中心に絵巻が盛んに制作され,鎌倉時代には武家から庶民階級にまで広がっていく.この時期の絵巻を集めたものが『日本絵巻大成』である.ここに描かれた病の図像を抽出・分類して,その描かれ方を整理した.その結果,当時の病の概念は広く曖昧なものだったこと,姿の見えない曖昧な病に対応するには病を可視化した絵がふさわしかったこと,見えない病を描く図像には病の原因と共に仏の御力が描きこまれていること,病を取りまく多数の人々の存在は様々なレベルでの病への関わり方があることが明らかになった.病という個人の体験に形を与えて普遍化し,共有することは,芸術の機能であるとともに,社会の一員として生きる大きな支えであったと結論づけている.
著者
一瀬 貴子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.17-26, 2013-09

本稿の主な目的は,家庭内高齢者虐待発生事例の家族システム内機能や構造の変容に対して,社会福祉士が活用する効果的なソーシャルワーク実践スキルを明らかにすることである.調査方法は,倫理的配慮を行った上で全国の地域包括支援センター435 箇所に配属されている社会福祉士435 名を対象とし,自記式質問紙を作成し,郵送調査を行った.有効回答は120 名であった.家族システム内の機能や構造の変容に対して,社会福祉士が活用する効果的なソーシャルワーク実践スキルを明らかにするために,社会福祉士が介入した後の家族システム内特性の改善度を従属変数,社会福祉士が活用したソーシャルワーク実践スキルの活用頻度を独立変数とする重回帰分析を行った.その結果,家族システム内特性の改善の第1 因子である『高齢者と養護者の交流パターンの改善』因子には,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が有意な正の規定力を示した.家族システム内特性の改善の第2 因子である『家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性の改善』因子には,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が有意な正の規定力を示した.家族システム内特性の改善の第3 因子である『公的サービスの利用促進や援助職による援助に対する抵抗感の改善』因子には,『虐待する養護者に情緒的支援・情報提供するスキル群』と『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が正の規定力を示した.これらの結果より,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』は,『高齢者と養護者の交流パターンの改善』や『家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性の改善』や『公的サービスの利用促進や援助職による援助に対する抵抗感の改善』につながるソーシャルワーク実践スキルであることが明らかとなった.相互作用パターンの変容方法を家族成員に伝えることで,家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性が改善することから,家族システムズアプローチに基づいたファミリーソーシャルワークを実践することは効果的であるといえる.
著者
一瀬 貴子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.11-20, 2016-03

社会福祉援助職従事者はストレスフルな職場で就労しているといえる.特に,社会福祉士は,支援困難事例に対処する場合,バーンアウトしやすい状況におかれるのではないか.本稿の目的は,①サービス介入が必要であるにもかかわらず,サービス介入を拒否する事例を抱えた経験のある社会福祉士のバーンアウトの実態を明らかにすること,②社会福祉士がとる対処スタイルとバーンアウトとの関連を明らかにすることである. 平成27 年9 月14 日から10 月15 日までの間にA県に所在する202 か所の地域包括支援センターに配置されている404 名の社会福祉士を対象とし,自記式質問紙調査を郵送法にて送付した.有効回答数は51 名(12.6%)であった. 全体的な傾向としては,顕著なバーンアウトの兆候を示しているとは言えない結果となった.ただ,個人的達成感が「注意」の範囲に入ることが分かった. バーンアウトの規定要因を明らかとするため,重回帰分析を行った.その結果,「色々な方法を試して一番良い方法を探し出した」「何が問題かを分析した」という『問題解決型』対処スタイルをとることは,脱人格化を減少させ,個人的達成感を高める作用があると明らかとなった.ストレッサーに対して直接働きかけ,どうにかしようと努力することは,バーンアウトの低減につながっているといえる. 「ぼうっとしてとりとめのない物思いにふけった」「不満や愚痴を誰かに話した」「スポーツ・趣味・グループ活動に熱中して嫌なことを忘れた」という『コミュニケーションによる発散型』対処スタイルは,脱人格化および情緒的消耗感を高めることにつながっている. また,「なるべく関わらないようにした」「睡眠安定剤を常用した」「うちにこもった」という『ストレス抑制型』対処スタイルは,情緒的消耗感を高めることにつながっている. つまり,回避・情動的な対処スタイルをとることで,バーンアウトが高まるといえる.
著者
中村 剛
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.11-18, 2009-03

社会福祉の最も原初的な場面は,実際に支援が行われている現場である.にもかかわらず,その現場について研究する社会福祉現場論が存在しないのは社会福祉学において問題ではないか.このような問題意識のもと,社会福祉現場の本質(潜在的可能性)を明らかにすることを通して,社会福祉現場論という研究領域を設定することを試みている.結果,社会福祉現場の本質として,①社会生活が営めるように支援する(現場実践論),②社会福祉政策・運営管理論・援助技術論において提示されている知の有効性を検証する(現場検証論),③現状の政策論,運営管理論,援助技術論として提示されている知の不備を改善・修正するように提言する(現場検証論),といった点があることを明らかにした.そして,この3 点により,社会福祉現場論は社会福祉における理論と実践を結びつける役割を果たす研究領域であることを示している.
著者
藤原 慶二
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.27-33, 2009-03

1970 年代に議論がはじまった「施設の社会化」は社会福祉施設の閉鎖的運営に対する問いかけがその起点であった.社会福祉施設の閉鎖的運営の傾向が顕著に表れていたのは「入所型社会福祉施設」で,地域社会との関係は特に希薄化していた.現在では社会福祉施設は「利用する」と表現されるが,この頃は「入所する」と言われていた.社会福祉施設での生活はまるで地域社会との関係を断たれたもののような表現であった.このような状況において地域社会と社会福祉施設の関係のあり方が問われるようになったのである.そして2000 年の社会福祉基礎構造改革により「地域福祉」を中心とした施策が打ち出されることとなった.これは人の生活の基盤は地域社会にあることを前提とした福祉サービスの構築が求められていることを示すのである.このことは社会福祉施設においても同様のことが言える.特に入所型社会福祉施設においてユニットケアや小規模多機能施設など新たなケアのあり方が提起されることとなった.いずれにしても現代の社会福祉の中心的役割を担っているのは「地域福祉」であることは間違いないのである.本論文では,これらの流れの中において社会福祉施設が地域福祉の一端を担うという観点から「施設の社会化」を捉えなおし,その展開と課題について考察を加えることとする.
著者
岩間 文雄
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.11-18, 2015-03

ソーシャルワークは,人と環境の交互作用に働きかけ,生活上の問題を抱えるクライエントの状況をよりよく改善する手助けを目的とした専門職の援助実践である.その具体的展開にあたって,効果的・合理的に援助を展開する上で,ソーシャルワークの援助展開に関する理論的枠組みは,実践者にとって欠かすことができない.例えば,登山者が目的地にたどり着くという目的を達成するために方位が記された地図が欠かせないように,プロセスについての理論的枠組みは,ソーシャルワーカーとクライエントの協働によるソーシャルワークをどんな手順で展開し,各段階においてどのような内容の働きかけを行う必要があるのか検討するための思考の基盤を提供してくれるものである.しかし,ソーシャルワーク実践に関する文献のレビューを通じて分かることは,ソーシャルワークの展開過程の枠組みについての解説は,大枠において本質的な特徴は共通しているものの,細部や段階の区分については研究者ごとに多くの相違点があるという現状である.そうした文献によって異なるソーシャルワーク展開過程の枠組みについて検討し,整理を試みる.本論では,ソーシャルワークの展開過程の理論的枠組に着目し,文献研究を通じてその性質と構成要素について検討することを目的とする.以下,Ⅱ.では,ソーシャルワークの展開過程を検討するうえで前提となる,ジェネラリスト・ソーシャルワークの成立背景と概念について整理する.Ⅲ.ではソーシャルワークの展開過程の特徴と構成要素について文献ごとの解説を比較し,それぞれで共通する点と異なる点を明確にしていく.Ⅳ.では,ソーシャルワークの展開過程の理論的枠組みにおけるバリエーションについて分析を深める上での課題について述べる.
著者
一瀬 貴子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.19-28, 2013-03

本稿における第一の目的は,地域包括支援センターに配置された社会福祉士の「高齢者虐待対応専門職としての専門職性自己評価」指標の構成要素を検討すること,第二の目的は,その専門職性がどの程度社会福祉士の職務の特徴を表していると認知しているのか(アイデアルイメージ)と,それらを実際に虐待発生事例の支援過程でどの程度意識して仕事にあたっているか(実践的意識)の差異を明らかにすることである.調査方法は,倫理的配慮を行った上で全国の地域包括支援センター1520 箇所に配属されている社会福祉士1520 名を対象とし,自記式質問紙を作成し,郵送調査を行った.有効回答は531 名であった.因子分析の結果,『1,被虐待高齢者や養護者や家族とのインテーク・アセスメント面接に関する技術因子(9項目)』,『2,高齢者虐待発生事例を支援する際の価値因子(8項目)』,『3. 高齢者虐待の発生時・通報時における対応方法に関する知識因子(7項目)』,『4,高齢者虐待対応専門職としてのオートノミー因子(3項目)』,『5,高齢者虐待発生事例に対する情報整理に関する技術因子(3項目)』,『6,高齢者虐待対応に関する技術向上のための自己研鑽因子(2項目)』が抽出された.また,アイデアルイメージと実践的意識との平均値についてt 検定で比較したところ,「高齢者虐待発生事例に対する情報整理に関する技術」を習得することや「スーパービジョンやコンサルテーションの機会を持つ」ことに関しては,アイデアルイメージと実践的意識との平均値の差異が大きいことが分かった.高齢者虐待対応現任者標準研修を受けることにより,「虐待対応ソーシャルワークモデル」に関する知識や技術を習得することが今後必要であると考える.
著者
高田 豊司 佐伯 文昭 八木 修司
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-10, 2015-03

一部の先駆的な自治体を除き,スクールソーシャルワーカー活用事業(以下,SSWer 活用事業と略)は2008年(平成20 年)に文部科学省において予算化され,全国的に実施されるようになった.SSWer 活用事業の背景として,学校現場において,いじめや不登校,児童虐待等,児童生徒の問題の背景に,家庭等の環境の問題があり,そのさまざまな環境に働きかけ,学校内や関係機関等と連携しながら,課題解決を図れるコーディネーター的な存在が求められているところから制度化された(文部科学省,2013).現在は導入初期にあたり,事業の拡充がはかられるとともに,今後の実践や理論モデルの構築が期待されているところである.
著者
古瀬 徳雄
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.31-44, 2014-03

16世紀初頭の宗教改革以後,カトリックとプロテスタントにおいて相違点がいくつかあり,その一つに聖母マリアに対する信仰的態度がある.カトリック教会においては,聖母マリアは重要な崇敬の対象となり,祝祭日があり,数多くの音楽作品が生み出されている.プロテスタント教会は,マリアを信仰の対象ではなく,あくまで一人の人間であるという考え方である.従って〈アヴェ・マリア〉はプロテスタント教会では歌われない. しかし,プロテスタントであるバッハには聖母マリアを内容とする作品がある.それらは,いずれも聖書の中でも詳しい記述がされている「ルカ福音書」を基底とする《BWV10》《BWV147》《BWV243 マニフィカト》《マタイ受難曲BWV244》《ヨハネ受難曲BWV245》に出現している. 本論ではこれらの作品から,その受容の変遷を辿った結果,バッハは聖母マリアだけでなく,聖書に登場するマグダラのマリア,ベタニアのマリアなどの他のマリアたちも,芸術の対象としていることが判明した. 次に《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004》〈第5楽章シャコンヌ〉の音列が,妻のマリアの突然の死に対する追悼の音楽として成り立っているとする論も検証し,さらに《マタイ受難曲》《ヨハネ受難曲》におけるマリアたちに関連するレチタティーヴォの特性を取り上げて精査した.その結果,バッハの音楽創造の原点には,これらマリアたちに対するまなざしが反映され,その中に二人の妻たちをも刻み込み,彼自ら十字架を背負い作品を作り続けてきたことを証明する.
著者
平田 美千子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.21-28, 2012-09

Mark Twain 著Roughing It(1872)におけるハワイに関する各章のおよそ3分の2は,1866 年にThe Sacramento Union 紙に掲載され,アメリカ西部読者の人気を博した通信文を編集したものである.しかしながら,オリジナルの通信文と比べると,このハワイ編は,Twain という作家独特のユーモアが十分に発揮されているとは思えない.本稿では,そうした結果を招いた原因は,Roughing It の作品構成と語り手であり中心人物でもある「トウェイン」が備える特徴との関わり,通信文と Roughing It のそれぞれが書かれた執筆時期に隔たりがあること,通信文の編集方針から生じた変化,ハワイという題材そのものがもつ特徴と「トウェイン」が担う役割との関わりなどにあることを指摘している.
著者
米倉 裕希子 作田 はるみ 尾ノ井 美由紀
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.77-84, 2013-03

これまでの障害児の家族研究は親の障害受容が中心的課題であり,親は子どもの障害にショックを受けながらも,再起に向かうというプロセスを踏むといわれてきた.しかし,受容の定義が曖昧で,科学的な検証がなされないまま一方的に家族に受容を押し付けてきた.このような問題意識にたち,すでに統合失調症患者の家族研究で確立されている家族の感情表出(Expressed Emotion,以下EE)研究に着目し,科学的かつ客観的手法を用いた家族研究を行ってきた.本研究では,幼児と学齢児の子どもの家族のEEおよびQOL の違いについて比較し,発達段階における家族支援のあり方について示唆を得る.【方法】EE評価には,簡便な質問紙であるFamily Attitude Scale(FAS)を,QOL 評価にはSF-36v2 を使用した.【結果】分析対象者は,幼児の家族8名,学齢児の家族32 名だった.幼児および学齢児の家族の2群で,FASおよびSF-36v2 の下位尺度それぞれにおいて,独立したサンプルのt検定をおこなった.FAS では有意な差はなかったが幼児の家族は学齢児の家族より低い傾向がみられた.一方で,QOL は全般的に学齢児のほうが幼児より高く,下位尺度の「全体的健康感」では有意に低かった.【考察】先行研究では,EE と子どもの行動上の問題との関連が示唆されている.幼児期では,子どもの行動特性や行動上の問題があまり表出されておらず,EE が低い傾向にあると思われる.一方で,QOL の全ての項目で学齢児の家族は幼児の家族より高く,「全体的健康感」では明らかに高かった.これは,幼児期より継続的にサービスを利用してきたことが影響していると推察される.以上の結果から,これまで言われていたようなショックから再起へという一方向的なプロセスを踏むのではないことが示唆された.しかし,対象者数が少ないため,一般化は難しく今後追試調査が必要である.
著者
木浪 冨美子 小川 徳子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.65-70, 2012-03

近年,精神保健福祉士が果たすべき役割の中でも,地域生活の維持・継続,生活の質を高めることに,重点が置かれるようになってきている.精神保健福祉士を養成するカリキュラムにも,それが反映されなければならないだろう.本研究は,それを満たすカリキュラム構築に向けた,1つの試みである.木浪・小川(2009,2011)によって報告された参加型学習実践の効果を踏まえ,今回は,ボランティアスタッフとしての活動経験の効果を検討した.その結果,「精神障害者との社会的・心理的距離」の感じ方にも,「精神疾患・精神障害者へのイメージ」にも,精神障害者が抱える「生活のしづらさ」への理解にも,参加型学習実践ほどの変化は認められなかった.その理由として,活動を導入するタイミングの問題と,活動に参加する時の学生の意識の問題が考えられる.
著者
中村 剛
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.83-90, 2012-09

ノーマライゼーションの理念が普及して以来,入所施設で暮らしている知的障害者の地域生活移行は障害者福祉における大きな課題となっている.本報告では,この課題に対して顕著な実績をあげている西駒郷地域生活支援センターを訪問し,そこで得た地域生活移行に関するスキルを,ソーシャルワークのスキルという観点にまとめ報告する.
著者
米倉 裕希子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.71-76, 2012-03

【目的】知的障害や発達障害者の地域生活の実現には,家族および地域住民の理解と支援が必要不可欠であり,地域住民の障害者に対するスティグマ是正への取り組みが必要である.本研究の目的は,知的障害や発達障害者との接触経験および障害に関する知識の伝達を含んだ地域住民を対象にしたスティグマ是正の実践プログラムの開発を目指し,試行的に実践したプログラムの評価である.【方法】対象者は,A町社会福祉協議会で開催された「当事者とともにつくるサポーター講座」の講座参加者で,知的障害や発達障害の知識や対応などについての自信度を講座の前後で比較した.【結果】分析対象者は13 名だった.発達障害の方が知的障害よりも自信度が低い傾向がみられた.また,講座後は,知識や対応,地域での生活において自信度が高まる傾向がみられたが,気持ちの理解においてはあまり変化が見られなかった.【考察】講座に参加することで,知識や対応の自信を高め,その結果,障害者との地域生活への自信につながったと考えられる.講座は,知識の伝達にとどまらず,多様かつ継続的な接触経験をする場を設け,障害当事者や家族など多様な立場の人が参加することが望ましい.また,発達障害は精神障害と同様に見えない,とらえにくい特質上,スティグマを受けやすいかもしれないので,取り組みの強化が必要である.今後は,さらに対象者を増やし,プログラムの効果を検討していくとともに,様々な場所や対象者に応用可能で,より簡便で効果のあるプログラムの検討も必要だろう.また,プログラムの効果を検証するアウトカムの開発が望まれる.
著者
中村 剛
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.37-44, 2012-03

社会福祉は本来,ケアの1 つであるにもかからず,法制度化された社会福祉の思想においては,ケアの倫理ではなく自立,権利(生存権),正義(公正)といった正義の倫理が語られる.しかし,ケアの倫理は正義の倫理の言葉では語られていない福祉思想を補い,福祉思想の明確化と体系化に寄与することができると考える.このような問題意識のもと本稿の目的は,ケアの倫理は正義の倫理の言葉では語られていない福祉思想の重要な側面を言い表していることを示すことである.考察の結果,ケアの倫理は,①自立イデオロギーからの覚醒,②正義の外部の者への眼差し,③〈選びえない〉現実への眼差しといった,正義の倫理に対する批判的機能を有すること,および,ケアの倫理には正義の倫理にはない「傷つき易い人間存在を気づかい,その人の呼びかけ(ニーズ)に応える」といった内容を有していることを明らかにしている.