著者
Daher Massoud
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー
巻号頁・発行日
vol.1, pp.62-75, 2014

2011年に発生したアラブ世界での民衆蜂起は、市民としてのアラブ人が近代的で民主的な国家を建設しようとする努力であった。その意味でアラブ民衆蜂起が発生した主な原因はもっぱら国内要因であり、そこに地域的、国際的な介入が加わったのである。アラブ民衆蜂起はシリアでは内戦に発展し、その影響は現在周辺国にも及んでいる。シリアが内戦に至った要因を理解するためには、シリアとそれを取り巻く現状を理解するだけでなく,シリアという国家が持つ歴史、なかでもフランス委任統治期の分断統治政策の失敗、ハーフィズ・アサドによる独裁体制の構築と継続、イスラエルによる干渉といったシリア現代史の影響を検討することが重要である。シリア内戦はレバノン、ヨルダン、トルコなどの周辺国にも少なからぬ影響を与えている。シリア難民の流出は、レバノンとヨルダンにとって社会と経済の負荷となっている。またシリア国内の分断と混乱は、レバノンの国内宗派対立をも先鋭化させた。他方でシリア内戦が長期化するにともない、イスラエルによるシリアとレバノンへの干渉が懸念されるようになっている。シリア内戦およびそれに対するイスラエルの対応は、結果的にレバノンへの大きな圧力となった。今後レバノンが主権国家としての安定的な地位を維持するためには、シリア内戦への政治的な関与を避け,国内各勢力の融和および各勢力の協調による国家運営を進めることがこれまで以上に必要である。

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