著者
津田 みわ Tsuda Miwa
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート
巻号頁・発行日
vol.52, pp.64-77, 2014

2011年10月のケニア国軍による南部ソマリアへの越境攻撃開始後、ケニアではアッシャバーブの報復攻撃とみられるテロが多発している。そのケニアで、2014年6月、ソマリア国境に近いンペケトニと呼ばれる一帯において大規模な住民襲撃事件が発生した。アッシャバーブがすぐに犯行声明を出したものの、ケニアのケニヤッタ大統領はアッシャバーブの犯行を否定し、「特定コミュニティを標的にしたエスニック・バイオレンス」だとの見解を表明した。ンペケトニ事件は、「悪化するテロ対ケニア政府による治安強化」というこれまでの図式に、いかなる波紋を投じたものだったのだろうか。本稿では、このンペケトニ事件を整理し、ケニア政府側の対応を追いながら、ンペケトニ周辺の土地問題と民族的分布との関係、与野党対立の現状、そしてケニアのインド洋沿岸を舞台に今も続く分離主義運動を中心に事件の背景を探り、今後の影響を考察する。
著者
Ali Ferdowsi
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.33-48, 2016-03

2014年6月のイスラーム国(以下ISIS)のメディアへの華々しい登場以降、米国政治を規定する主要な要因の1つとして「恐怖心」がかつてない程の重要性を帯びてきている。本稿では政治心理学的な分析手法を援用しつつ、ISISが何よりも「テロ攻撃集団」としていかに「恐怖心」を醸成するための洗練された戦略を実践しているか、またそれが統計的には圧倒的に中東現地のムスリム一般住民を標的にしており、本来的にS.ハンティントン的な「西欧文明に敵対するイスラーム」という問題を内包していないにもかかわらず、米国エスタブリッシュメントによる他者への「恐怖心」によって如何に本質が曲解されて「ムスリム排斥」のような情緒的な政治主張に向かわせているかの契機を分析する。筆者は論稿中でマキャベリから以降最近に至るまでの政治学関係の議論を渉猟しつつ、「恐怖心」をめぐる問題が「テロル」との関係においていかに扱われてきたかを再検討し、西欧のメディアにおける「テロ集団」としてのISISの登場が政治学的な観点から提起している問題の新しさと古さを跡付けようとする。同時に現在の米国社会を覆っているイスラモフォビアの情緒的反応についてもその淵源が古くかつ政治的に根深い問題から発していることを指摘している。本論稿の分析は直接的にはISISによって政治的な雰囲気が大きく変容するなかで大統領選挙の年を迎えている米国の国内政治を扱うものであるが、ここでの議論は「アラブの春」以降のシリア危機に発する難民問題に直面している欧州(EU)や、2015年11月のパリのテロ多発事件以降緊迫した雰囲気に覆われているフランスの政治状況にも通底しており、その意味では偶々2014年にISIS によって惹起されたとはいえそれ自体が自律的な展開の契機を内包する現代社会の政治的な抑圧的システムのグローバルな拡大と拡散に警鐘を鳴らそうとするものである。
著者
馬 欣欣 岩﨑 一郎
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.2-38, 2019

<p>共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。</p>
著者
武内 進一
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:21883238)
巻号頁・発行日
2016

ブルンジ、ルワンダ、コンゴ共和国では、いずれも2015年に大統領の三選禁止規定が変更されたが、その影響は大きく異なった。ブルンジでは激しい抗議活動と弾圧によって政治が著しく混乱したのに対し、コンゴでは抗議活動はほぼ封じ込められ、ルワンダでは抗議活動すら起こらなかった。抗議活動の強弱は、反政府勢力の組織力に依存する。ルワンダとコンゴでは、1990年代の内戦に勝利した武装勢力が政権を握り、国内に強力な反政府組織が存在しないうえ、経済的資源の分配を通じて反対派を懐柔できた。一方、国際社会の仲介によって内戦が終結したブルンジでは、権力分有制度のために反政府勢力が強い影響力を保持し、また反対派を懐柔するための資源も乏しかった。「三選問題」が示すのは、民主的な政治制度を採用しつつそれを形骸化させる政権の姿勢だが、それは冷戦後のアフリカで形成された政治秩序の一つの類型でもある。
著者
佐藤 幸人
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 = Quarterly journal of Institute of Developing Economies Japan External Trade Organization (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.2-29, 2017-12

1990 年代以降,台湾の電子部品部門の成長は著しく,台湾電子産業において4 分の3 を占めるに至っている。このような電子産業の電子部品部門への傾斜という構造変化をもたらした要因には,電子製品部門の中国等へのシフトと,半導体のファウンドリ部門のような一部の電子部品のグローバルな発展という2 つのダイナミズムがあることが,先行研究によって明らかになっている。本稿ではレンズ・メーカーの大立光電と,液晶パネル駆動IC を開発する半導体ファブレスの聯詠科技のケーススタディをおこない,後者のダイナミズム,すなわち電子部品のグローバルな発展がどのような企業活動から生み出されたのかについて,より深く検討を加えた。その結果として,両社はともに内外の市場に早い段階からアプローチしていること,台湾企業とのリンケージへの依存からグローバルな発展への移行がみられること,移行は自主的な技術の形成に支えられていたことを示した。
著者
Yakov M Rabkin
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.23-34, 2017-03

本稿は2年間の交渉の末昨年7月に漸く合意に至ったイラン核交渉について、その背景にあって強力に交渉の帰趨を支配してきた国際政治の構造的な要因に着目し、それがイラン問題に留まらず広く現在の国際関係を歴史的に規定してきたことに注意を喚起しようとするものである。2013年以降のイラン核開発疑惑をめぐる交渉の実質的な主役である米国は、この交渉について国家安全保障上の「深刻な懸念」を表明するイスラエルの説得に腐心してきた。だがここでイスラエルの懸念の主な根拠がアフマディネジャード大統領(当時)の「イスラエルを地図上から消す」発言であること、この発言の真意についてあいまいな部分が残るにもかかわらず、イスラエル側がネタニエフ首相を中心にこれに固執し続けてきたことはきわめて特異なことであると言わなければならない。その背景にはオスロ合意の空洞化と軌を一にするイスラエルの国内政治の極端な右傾化、1979年の革命以後のイランを全否定して「反近代化(De-modernization)」のサイクルに落とし込もうとする一部の根強い潮流(それは皮肉にも隣国のイラクにおいて実現した)、さらに旧来からの「西欧VSアジア」の差別的構造を維持しようとする強力な力が否定しようもなく働いていると見るべきであろう。この最後の点について筆者は第二次大戦中のマンハッタン計画に言及し、当時のルーズベルト米大統領がいずれにしても西欧側にあったナチス・ドイツへの原爆の投下を躊躇する一方で、これを引継いだトルーマン大統領はその外部にあった日本に対して2度の原爆投下をためらわなかったという事実を指摘する。こうした事例に象徴される不平等な関係が現在でも絶えず繰り返されている事実は、イラン核合意の性格を公平に理解し今後の展開を見通すうえで不可欠な前提である。
著者
Darwisheh Housam
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.43-64, 2015

エジプトではムバーラク大統領の国内政策と域内におけるエジプトの影響力低迷が引き金となって、2011年1月25日に抗議運動起こった。抗議運動はエジプト全土に拡がり、18日間の民衆的な反体制運動によってムバーラクは軍に見捨てられ、失脚に追い込まれた。この民衆蜂起によって警察は街頭から撤退し、シナイ半島の警察署は焼き放たれ、ムバーラクが率いていた国民民主党の建物や国内治安機関の本部は襲撃され、国家機関が数ヶ月にもわたって機能不全となり、ムバーラク体制の崩壊は国内的な混乱を招くこととなった。振り返れば、エジプトでの政治的大変動は社会的な革命へと展開することはできなかった。その理由は独裁体制からの移行を先導できる組織化された反体制勢力が存在しなかったためである。民衆による抗議運動は一時的に体制を転覆できても旧体制のエリートを分裂させることはできず、軍の影響下にある体制の復活を防ぐこともできなかった。2011年以降のエジプトは現在まで混乱状態に陥ったままであるが、1カ月に及ぶエジプト軍最高評議会(SCAF)の暫定統治、エジプト史上初の自由な大統領選挙によって選出された文民大統領のムルスィーによる一年余りの統治、そして2013年7月の軍事クーデターによって権力の座に就いたスィースィーの統治といった過程で、民衆蜂起がエジプトの外交関係に及ぼした影響はごく僅かであった。本稿は、現在のエジプトの外交政策が2011年の革命にほとんど影響を受けていないのはなぜか、またエジプトの統治者たちが政権の正統性、体制の強化および政治的な安定性を確保し、国内的な課題に対処するための戦略をいかに策定しているのかを説明することを試みる。本稿での主張は、ムバーラク以降のエジプトが体制の強化と保全のために外交政策を進めており、国内的な混乱によって地域内アクターへの依存度が高まっていることである。
著者
佐藤 章 Sato Akira
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート
巻号頁・発行日
vol.51, pp.1-15, 2013

本稿は、アフリカ開発にとって不可避の課題として認識されている紛争解決と平和構築の問題に関して、とくに国連や欧米諸国などのアフリカ域外の主体によって行われてきた軍事的取り組みの歴史と現状を考察しようとするものである。紛争解決・平和構築を目的として域外主体によって行われてきた軍事的取り組みは、1990年代のソマリアとルワンダでの経験を踏まえて試行錯誤が積み重ねられてきた。これを経て近年では、域外主体がアフリカ諸国の平和構築能力の強化を支援しつつ、国連PKOに代表される域外の軍事要員がアフリカ側と連携する体制が確立されてきている。本稿ではこのような歴史を整理したのち、アフリカの紛争解決・平和構築に深く関わる新しい考え方として注目されている「保護する責任」をめぐる問題を論ずる。具体的には、「保護する責任」に依拠して2011年4月にコートジボワールで行われた国連PKOによる軍事行動を取り上げ、「保護する責任」をめぐり提起されてきた諸論点が、この現実の軍事行動においてどのように現れていたかを検討したい。
著者
網中 昭世
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:21883238)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.62-73, 2017

本稿の目的は、近年モザンビークで発生している野党第一党モザンビーク民族抵抗(RENAMO)の武装勢力と国軍・警察の衝突のメカニズムを明らかにすることである。考察の際の着目点は、当事者であるRENAMOの除隊兵士の処遇の変化と、RENAMOの弱体化の関係である。モザンビークでは1992年に内戦を国際社会の仲介によって終結させ、紛争当事者を政党として複数政党制を導入して以来、モザンビーク解放戦線(FRELIMO)が政権与党を担っている。しかし、FRELIMOは選挙において必ずしも圧倒的な勝利を収めてきたわけではない。だからこそFRELIMOは一方で支持基盤を固めるために自らの陣営の退役軍人・除隊兵士を厚遇し、他方でRENAMOの弱体化を図り、結果的にRENAMO側の除隊兵士は排除されてきた。近年のRENAMOの再武装化は、紛争当事者の処遇に格差をつけた当然の結果であり、それを国軍・警察が鎮圧する構図となっている。