著者
三木 理史
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.2-18, 2005-05
被引用文献数
1
著者
五十嵐 隆幸
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.2-33, 2021

<p>1979年1月の米華断交後,米国が台湾関係法を制定したことで,国府は台湾の防衛に関して米国から一応の保障を得ることができた。だが同法は米華相互防衛条約と異なり,米国に台湾防衛の義務がなかった。そのため蔣経国は単独で台湾を防衛することを想定し,「大陸反攻」の態勢を保持していた国軍を「台湾防衛」型の軍隊に改編させた。また,同法に依って提供される「防御性」兵器も米国の判断で選択されるため,国府のニーズに合った兵器とは限らなかった。それゆえ国府は,「大陸反攻」のイデオロギーが色濃く残る大規模な陸軍兵力の削減によって経費を捻出し,兵器の自主開発・生産体制の構築と米国以外からの調達で軍近代化を進めた。米華相互防衛条約の失効という安全保障上最大の危機への対応を迫られた蔣経国は,実質的に「大陸反攻」の構想を「放棄」した。そして国軍は「攻守一体」の軍事戦略に基づく「大陸反攻」任務とのジレンマを抱えつつ,「台湾防衛」のための軍隊へと変貌していくのであった。</p>
著者
津田 みわ Tsuda Miwa
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート
巻号頁・発行日
vol.52, pp.64-77, 2014

2011年10月のケニア国軍による南部ソマリアへの越境攻撃開始後、ケニアではアッシャバーブの報復攻撃とみられるテロが多発している。そのケニアで、2014年6月、ソマリア国境に近いンペケトニと呼ばれる一帯において大規模な住民襲撃事件が発生した。アッシャバーブがすぐに犯行声明を出したものの、ケニアのケニヤッタ大統領はアッシャバーブの犯行を否定し、「特定コミュニティを標的にしたエスニック・バイオレンス」だとの見解を表明した。ンペケトニ事件は、「悪化するテロ対ケニア政府による治安強化」というこれまでの図式に、いかなる波紋を投じたものだったのだろうか。本稿では、このンペケトニ事件を整理し、ケニア政府側の対応を追いながら、ンペケトニ周辺の土地問題と民族的分布との関係、与野党対立の現状、そしてケニアのインド洋沿岸を舞台に今も続く分離主義運動を中心に事件の背景を探り、今後の影響を考察する。
著者
馬 欣欣 岩﨑 一郎
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.2-38, 2019

<p>共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。</p>
著者
武内 進一
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:21883238)
巻号頁・発行日
2016

ブルンジ、ルワンダ、コンゴ共和国では、いずれも2015年に大統領の三選禁止規定が変更されたが、その影響は大きく異なった。ブルンジでは激しい抗議活動と弾圧によって政治が著しく混乱したのに対し、コンゴでは抗議活動はほぼ封じ込められ、ルワンダでは抗議活動すら起こらなかった。抗議活動の強弱は、反政府勢力の組織力に依存する。ルワンダとコンゴでは、1990年代の内戦に勝利した武装勢力が政権を握り、国内に強力な反政府組織が存在しないうえ、経済的資源の分配を通じて反対派を懐柔できた。一方、国際社会の仲介によって内戦が終結したブルンジでは、権力分有制度のために反政府勢力が強い影響力を保持し、また反対派を懐柔するための資源も乏しかった。「三選問題」が示すのは、民主的な政治制度を採用しつつそれを形骸化させる政権の姿勢だが、それは冷戦後のアフリカで形成された政治秩序の一つの類型でもある。
著者
Ali Ferdowsi
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.33-48, 2016-03

2014年6月のイスラーム国(以下ISIS)のメディアへの華々しい登場以降、米国政治を規定する主要な要因の1つとして「恐怖心」がかつてない程の重要性を帯びてきている。本稿では政治心理学的な分析手法を援用しつつ、ISISが何よりも「テロ攻撃集団」としていかに「恐怖心」を醸成するための洗練された戦略を実践しているか、またそれが統計的には圧倒的に中東現地のムスリム一般住民を標的にしており、本来的にS.ハンティントン的な「西欧文明に敵対するイスラーム」という問題を内包していないにもかかわらず、米国エスタブリッシュメントによる他者への「恐怖心」によって如何に本質が曲解されて「ムスリム排斥」のような情緒的な政治主張に向かわせているかの契機を分析する。筆者は論稿中でマキャベリから以降最近に至るまでの政治学関係の議論を渉猟しつつ、「恐怖心」をめぐる問題が「テロル」との関係においていかに扱われてきたかを再検討し、西欧のメディアにおける「テロ集団」としてのISISの登場が政治学的な観点から提起している問題の新しさと古さを跡付けようとする。同時に現在の米国社会を覆っているイスラモフォビアの情緒的反応についてもその淵源が古くかつ政治的に根深い問題から発していることを指摘している。本論稿の分析は直接的にはISISによって政治的な雰囲気が大きく変容するなかで大統領選挙の年を迎えている米国の国内政治を扱うものであるが、ここでの議論は「アラブの春」以降のシリア危機に発する難民問題に直面している欧州(EU)や、2015年11月のパリのテロ多発事件以降緊迫した雰囲気に覆われているフランスの政治状況にも通底しており、その意味では偶々2014年にISIS によって惹起されたとはいえそれ自体が自律的な展開の契機を内包する現代社会の政治的な抑圧的システムのグローバルな拡大と拡散に警鐘を鳴らそうとするものである。