著者
張 瑞雪
出版者
岩手大学語文学会
雑誌
岩大語文 (ISSN:09191127)
巻号頁・発行日
no.17, pp.36-48, 2012-07-14

中国人日本語学習者の視点から見ると、日本語条件表現と対応する中国語の複句も条件複句だという表面的な判断が一般的である。しかし、筆者は以上のー面的な考えに疑問を感じてきたことが本研究のきっかけとなっている。日本語条件表現と対応する中国語複句は、条件複句だけではなく、仮設複句・推断複句・継起複句も含む。しかも、それらは不可欠重要な要素である。条件複句・仮設複句・推断複句は中国語では因果複句に含まれるので、大まかに言えば、日本語条件表現と中国語因果複句の対照研究という、より大きな枠組みの中で研究を進める必要がある。日本語条件表現を「ば」、「と」、「たら」、「なら」四種類に分けて、中国語因果複句と対照した結果、以下のことが明らかになった。1、「ば」形式について、中国語で対応する因果複句は条件因果複句、仮設因果複句、推断因果複句であるが、関連詞を使わない場合もある。2、「と」形式について、中国語で対応する因果複句は条件(順接条件)因果複句、仮設因果複句、推断因果複句、継起並列複句であるが、関連調を使わない場合もある。3、「たら」形式について、中国語で対応する因果複句は条件因果複句、仮設因果複句、推断因果複句であり、継起並列複句に対応する場合もある。4、「なら」形式について、中国語で対応する因果複句は仮設因果複句、推断因果複句である。事実性については、ヤコブセン(2010)が現実の世界以外に可能世界までも拡張的に想定することによって仮定的・反事実的意味が生じるという観点を呈示している。筆者は更に、所謂「現実の世界」を「事実」・「実現される可能性が高い」•「実現される可能性が低い」の三つのレベルに分け、「反事実」を加えた四つのレベルを日本語条件表現分析の観点とする。さらに、話し手が文全体の命題(論理的関係)に対して持つ心的態度(モダリティ)は、事実性の度合いとの微妙な関係にあり、事実性と併せて日本語条件表現の分析の観点として用いることができると考えた。

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