- 著者
-
三善 勝代
KATSUYO MIYOSHI
- 出版者
- 和洋女子大学
- 雑誌
- 和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, pp.35-47, 2012-03
男女雇用機会均等法が施行された25年前、夫婦共働き世帯はまだ少数派であったが、職場からの転勤(勤務地の変更)の要請に対し、一時的な夫婦別居つまりコミューター・マリッジで応える事例が存在した。国家公務員夫婦5組と通商産業省(現、経済産業省)初の女性官僚、坂本春生の場合が、それに該当する。国家公務員女性の転勤見直しが求められている現在、そうした先駆的な対応の実態と含意を把握すべく、両者のケース・スタディを試みた。用いた主資料は、前者を含む専門職・管理職の別居夫婦50組に対する面接・聞き取り調査(1989年筆者実施)の結果と坂本の体験記(1988年公刊)である。坂本に対しては、面接による追調査も実施した(2011年8 月)。 その結果、国家公務員夫婦がコミューター・マリッジによって職務を完遂し親密関係も保持できるのは、主として、赴任期間つまり夫婦別居の期間がほぼ2年未満と短い上に、日頃から万全の備えをして共働き継続に臨んでいることによる、と判明した。ただし、夫婦双方の異動に際してこの種の対応を繰り返せば、結果的に別居期間が長引くことになり、個人的な努力を超える事態も生じかねない。 共働きが多数派となり、男女双方におけるワーク・ライフ・バランスが標榜されている今日、転勤施策についても、国家公務員夫婦が提案し坂本が展望するように、本人の意向と家族事情を反映させたものが、その実現に繋がると考えられる。しかし、民間企業における過去20年間の大勢は、依然として「会社主導の転勤者選定」となっている。そうした傾向に歯止めをかけるような支援が、まずは国家公務員から実施されることを期待したい。