著者
黒田 誠
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.1-15, 2016-03

真下耕一監督によるアニメ作品『Madlax』を対象に、仮構作品が鑑賞手順として要求する仮構世界受容の過程において前提とされる暗黙の了承事項が意図的に脱臼させられ、全方位的に仮構的意味構成軸を散乱させる表現が達成されている実態を検証する。本稿はこの企図に基づき前26話中の第1話と第2話までの映像表現の内容の概念化を図り、仮構世界の保持する原型的多義性を反映した映像表現の理念化を図る作業を進めたものである。
著者
佐藤 千恵 後藤 政幸 Chie SATO Masayuki GOTO
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.149-155, 2015-03

内分泌かく乱作用が懸念されるピレスロイド系農薬の環境生態系への影響を把握することを目的に、貝類中微量ピレスロイド系農薬の分析方法の開発を試みた。ホンビノス貝(Mercenaria mercenaria)を対象に5種ピレスロイド系農薬(ビフェントリン、ペルメトリン、シペルメトリン、フェンバレレート、デルタメトリン)を添加して、微量濃度における回収率(ホンビノス貝中各農薬濃度0.1ppm)および分析の迅速性、クリーンアップ処理の妥当性について検討した。農薬分析の前処理には高速溶媒抽出およびゲル浸透クロマトグラフクリーンアップを採用した。結果、ビフェントリン、ペルメトリン、シペルメトリン、フェンバレレートおよびデルタメトリンの回収率はそれぞれ67、86、76、82および79%であり、「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ライン」(平成22年12月厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)に定められた回収率の目標値(70〜120%)のほぼ範囲内であった。また、高速溶媒抽出により分析時間の短縮等有効な抽出ができ、ゲル浸透クロマトグラフクリーンアップ法を取り入れたことでガスクロマトグラフ/質量分析時の夾雑物質による検出器等の汚染や定量感度の低下が解消された。
著者
小沢 哲史 TETSUSHI OZAWA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.155-166, 2013-03

近年、日本では少年犯罪に対する関心が高まり、実態以上に過大視する傾向が強まっているとされる。これを「少年犯罪に対する過大視現象」とする。この現象については実態の把握が十分ではなく、この現象をどのように説明すべきか、その影響は何かなど不明な点も多い。本論文は第一に、この現象の実態をより明確に把握するため、高校生、大学生、幼稚園児の母親、50 〜70歳代の計4グループ、合計183名を対象に、平成17年度内閣府調査の質問文を精緻化した調査を実施した。第二に、少年犯罪の過大視現象をどのように捉えるのかについて学際的議論を行った。最後に、過大視現象が青少年の発達に与える影響について論じた。
著者
藤丸 麻紀
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.41-54, 2016-03

民間活力導入の流れの中で指定管理者制度が2003年に導入されて10年以上が経過し、指定管理者制度導入施設は増加した。指定管理者制度を経済学的に考えると、不完備契約とプリンシパル=エージェント理論を当てはめることができる。とくに児童館・保育園への指定管理者制度導入を考えると、指定期間を長くすることが望ましいが、エージェンシー・スラックを抑えるためにはモニターコストをかける必要があるといえる。実証分析で東京23区の指定管理者導入施設について分析を行ったところ、児童館・保育園を含む社会福祉施設については指定期間が長くなっていることが分かった。次に児童館と保育園を分けて分析したところ、保育園については指定期間が長くなっているが、児童館についてはむしろ短くなっていることが分かった。しかし児童館・保育園に指定管理者制度を導入し、その中でもとくに株式会社を指定管理者としている例はまだ数が少なく十分な分析が行えない。そこで東京都中央区の例を参考に事例研究を行った。その結果、児童館に対する指定管理者制度導入によって運営費用を抑えながらサービスの質的向上を図るために、指定期間を10年間と長くしている一方で、公設公営の館を基幹館として指導・監督を行う、運営委員会を開催する、引継ぎ期間を長くするなど、モニターコストや引継ぎコストを十分にかけていると推測できることが分かった。
著者
高久田 佳津子 Katsuko TAKAKUDA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.157-161, 2015-03

2011年度から3年間、英語・英文学類で行った「英語ミュージカル」を通じて英語力の向上、英語による発信力の強化に向けた教育を行った。このプロジェクトは、2010年秋に行った英語教育に対してのイベントに関するアンケートで全学の学生が興味を示した(30%)「英語ミュージカル」を、通常の授業カリキュラムと関連づけた英語教育プログラムとして完成させることを目標としている。英語・英文学類所属教員は、文化、文学、言語というそれぞれの専門に合わせてこのプロジェクトに係わり、ミュージカル公演、佐倉基礎演習、通常授業の3つを機能的に連結させる試みを行った。通常授業である「アドヴァンスト・リーディング」、「文学と音楽」などの授業をプログラムに合わせて強化し、さらに「ミュージカル英語」のクラスを増設した。このプロジェクトは、英語の4技能を総合的に獲得する、つまり「人間の言葉」としての英語力を獲得する取り組みである。活動は、①テキスト製作、②佐倉セミナー、③里見祭でのミュージカル上演の3つに大きく分けられ、それぞれ当初の目的が達成された。題材として、『ウェスト・サイド・ストーリー』(2011年)、『マイ・フェア・レディ』(2012年)、『サウンド・オブ・ミュージック』(2013年)を選び、教育効果としては、①共同作業による学習意欲の増進、②自己アピールに必要な知識の獲得、③教養力のアップの3つのレベルで効果が認められた。
著者
黒田 誠 Makoto KURODA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.49-61, 2014-03

映画作品Peter Pan と原作の文学作品Peter and Wendy を対象にして、それぞれのシーンやストーリーの詳細項目の対比から同等性と差異性の要素となる具体例を検証することにより、作品の保有する固有名詞概念に関する同等性判断の外延範囲の拡張を要求すると思われる存在論的問題性についての考察を試みる。手法としては観念小説の概念記述と映画作品の映像記述の間の種々の位相変換の過程を辿ることにより、量子的多世界解釈における平行宇宙において指摘し得ると思われる間世界的存在同一性と類比的な、意味空間における相当的同等性と可能態における分岐的発現可能性に対する示唆として仮構記述の内実を評価し、人格や現象において指摘し得ると同様の多宇宙的存在発現様態が映像的仮構において変換記述されていることの実例を示す。
著者
三善 勝代 KATSUYO MIYOSHI
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.35-47, 2012-03

男女雇用機会均等法が施行された25年前、夫婦共働き世帯はまだ少数派であったが、職場からの転勤(勤務地の変更)の要請に対し、一時的な夫婦別居つまりコミューター・マリッジで応える事例が存在した。国家公務員夫婦5組と通商産業省(現、経済産業省)初の女性官僚、坂本春生の場合が、それに該当する。国家公務員女性の転勤見直しが求められている現在、そうした先駆的な対応の実態と含意を把握すべく、両者のケース・スタディを試みた。用いた主資料は、前者を含む専門職・管理職の別居夫婦50組に対する面接・聞き取り調査(1989年筆者実施)の結果と坂本の体験記(1988年公刊)である。坂本に対しては、面接による追調査も実施した(2011年8 月)。 その結果、国家公務員夫婦がコミューター・マリッジによって職務を完遂し親密関係も保持できるのは、主として、赴任期間つまり夫婦別居の期間がほぼ2年未満と短い上に、日頃から万全の備えをして共働き継続に臨んでいることによる、と判明した。ただし、夫婦双方の異動に際してこの種の対応を繰り返せば、結果的に別居期間が長引くことになり、個人的な努力を超える事態も生じかねない。 共働きが多数派となり、男女双方におけるワーク・ライフ・バランスが標榜されている今日、転勤施策についても、国家公務員夫婦が提案し坂本が展望するように、本人の意向と家族事情を反映させたものが、その実現に繋がると考えられる。しかし、民間企業における過去20年間の大勢は、依然として「会社主導の転勤者選定」となっている。そうした傾向に歯止めをかけるような支援が、まずは国家公務員から実施されることを期待したい。
著者
内田 雅人 Masato UCHIDA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.119-130, 2014-03

研究の目的 強化スケジュールにおける強化子出現の規則性とオペラント反応の持続性の関係を消去抵抗を指標として、コンピュータ上のシミュレーション実験によって検討した。研究計画 コンピュータ上の仮想実験でラットのレバー押しを部分強化(VR、FR、VI、FI)か連続強化(CRF)で条件づけし、強化子出現の規則性の違いと消去時の反応の持続性の関係を比較した。場面 オペラント条件づけのシミュレーション実験ソフトを用いて、仮想ラットのレバー押し反応と消去抵抗を測定した。被験体 仮想ラットを5匹ずつ5群に配置した。独立変数の操作 変率強化(VR)、定率強化(FR)、変時隔強化(VI)、定時隔強化(FI)、連続強化(CRF)の強化スケジュールを用いた。行動の指標 消去基準に達するまでのレバー押し反応数、所要時間、反応間時間(IRT)を測定した。結果 消去期の反応数と消去に至るまでの所要時間の違いが確認された。消去1日目には、短いIRTがVR群とFR群に多く、VI群には長いIRTが多いという特徴が確認されたが、消去2日目以降はどの群のIRT分布もCRF群に類似したパターンへと変化していった。結論 強化子出現が不規則で強化期から消去期への条件変化が明瞭でない変動型スケジュールは、その変化が明瞭な固定型もしくは連続強化スケジュールよりも消去抵抗を高めることが確認された。
著者
池田 幸恭 Yukitaka IKEDA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.65-75, 2015-03

本研究の目的は、感謝を感じる対象の発達的変化について明らかにすることである。10代(15歳以上)、20代、30代、40代、50代、60代それぞれ300名(男性150名、女性150名)の合計1800名にweb調査を実施し、感謝を感じる対象20項目への回答を主に求めた。各対象へ感謝を感じる程度を確認した上で、感謝を感じる対象の年代による評定得点の差を検討した。その結果、感謝を感じる対象の発達的変化は、対人関係における感謝(変化なし)、対人関係における感謝(変化あり)、抽象的な対象への感謝という大きく3つの特徴にまとめられた。第1の対人関係における感謝(変化なし)は、父親、母親、職場(あるいはアルバイト先)の人が含まれ、年代による得点差はみられず、15歳以上から60代にかけて感謝の気持ちを安定して感じていた。第2の対人関係における感謝(変化あり)は、友だち、恋人(あるいは配偶者)、祖父母、学校の先生、自分の子ども、年下のきょうだい、年上のきょうだいが含まれ、感謝の気持ちを最も感じている時期ならびに感じる程度が最小の時期が対象によって異なっていた。第3の抽象的な対象への感謝は、自然の恵み、自分の健康状態、いのちのつながりといった10種類の対象が含まれ、概ね10代から20代よりも50代、さらに60代に感謝を感じる程度が大きくなっていた。以上より、感謝は生涯発達をとおして、具体的な対人関係においてだけなく、抽象的な対象へも広がって感じられるようになると考えられた。