著者
藤沢 佳充 現代行動科学会誌編集委員会
出版者
現代行動科学会
雑誌
現代行動科学会誌 (ISSN:13418599)
巻号頁・発行日
no.16, pp.19-28, 2000

心的イメージ研究が「復活」を果たした1960年代後半以降、認知心理学においては心的イメージや夢、空想、白昼夢などといった「心の中」で生じる現象に関する研究が数多く行われるとともに、その研究の持つ重要性も広く認識されるに至っている。これらの心的現象は感覚・知覚と異なって外部からの刺激とは独立に生じるものであることから、Antrobus(1968)やSinger(1988)はそれらを総称して"刺激独立型思考(stimulus-independent thought)"という名称を与えている。そして刺激独立型思考の現象的特徴(特に心的イメージの現象的特徴)を中心とする多くの問題が明らかにされてきているが、一方でその産出過程については未だ解明されていない点が多い。今回本研究で取り上げる刺激独立型思考の産出過程と注意資源の配分の関係に関する問題も、それら未解明の問題の1つである。 一般に我々は、周囲の状況が目まぐるしく変化する場合よりも、変化の少ない単調な状況にいる場合のほうが空想をしたり、白昼夢を見たりする、すなわち刺激独立型思考を産出することが多い(Antrobus, Snger, & Greenberg, 1966)。また、我々が刺激独立型思考を産出しているとき、それにあまりに没頭していると周りの状況の変化に気づかないことがある。これらの事実は、刺激独立型思考は外部に注意を向ける必要が少ない場合に、そして心の内部に注意を向けている場合に産出されるということを示しているように思われる。これに関連する知見として、例えばRichardson(1994)は、刺激独立型思考の1つである心的イメージの産出には心の内部に注意を向けることが必要であると述べているし、またTellegen & Atkinson(1974)もイメージや空想などに没頭する人ほどそれらにより多くの注意を向ける傾向が強いとしている。 これらのことから、刺激独立型思考の産出過程と注意との間には密接な関係があると推測することができる。しかしながら、残念なことにこの推測は大きな弱点を抱えている。なぜなら、上に挙げた例やRichardsonらの主張はあくまで経験的な事実に基づくものに過ぎず、実験による十分な検証を受けたものではないからである。刺激独立型思考の産出にとって、心の内部に注意を向けることが本当に必要な条件なのか。反対に、外部に注意を向けているときには刺激独立型思考の産出は行われないのか。刺激独立型思考と注意との関係を明らかにするためにはより詳細な実験的検討が加えられなければならない。

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