著者
米山 喜久治
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.33-62, 2015-12-10

明治以来日本の学校教育は,欧米先進諸国への「キャッチアップ」を最大の課題としてきた。学校教育から生活世界の「経験」,知恵」は,"遅れたもの"として除外された。教科書と自己の経験,具体的事例を対比させる思考回路は遮断されてきた。教科書中心とペーパーテストによる「単一正解思考」に1979年以降共通一次試験の「偏差値思考」が加わった。自然,具体的事象,経験は視野になく,権威ある通説重視の思考様式が強化された。キャッチアップ指向の「学校教育」は生徒・学生が事象を「多面」,「多角的」,「重層的」に把握して自分で考えることを阻害してきたのである。こうして日本人は「情報」への素養を身に付けないまま「情報化時代」に突入したのであった。21世紀人類史の大転換期にある現代,「断片的情報」の洪水に幻惑されることなく自らの目で見て考えることの重要性は増大している。大学教育は,単に「最新知識の伝達」ではなく学生の知的,人間的成長を促すことが使命である。学生が先人の経験と思索に学び,事実と経験に基づき自分で考えて「価値尺度を形成」,「生きるための知恵」を身につける。そのための再構築が緊急の課題である。

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