著者
谷川 春美
雑誌
崇城大学芸術学部研究紀要
巻号頁・発行日
no.8, pp.113-114, 2015

本稿は、筆者自身が撮影した写真を用いることでできる風景画の表現について考察したものである。写真を一枚の紙媒体として見た時、一瞬でその場にあった風景を切り取れる性質と共に、キャンバスに時間をかけて制作していく過程と対比することで、自身の持つ想像力を表現できる面白さがあると考える。そして、何気ない風景を描くことで普段見過ごしていた新たな発見をキャンバス上にて見出してきた。第一章では、写真を用い風景画を描き始めた二つの経緯を述べている。まず一つ目は、父と姉の撮影した写真に対してどうインスピレーションが湧くのかと、一枚の紙媒体に好奇心と興味を抱いたことにある。二つ目は高校の頃、風景画を描く際に顧問の教師から写真を用いたらどうかと助言を受けたことである。画題として初めて写真を用いることの関心が、大学に入ってからもさらに高まっていくきっかけとなった。第二章では、大学生活での時間的余裕と様相の変わる写真を多く得たことで、写真のよりよい選別方法と、後に風景画作品となる写真の分類とその作品解説を述べている。分類は三つの目安を設け、すなわち、同類の紙媒体の中でも作品になるもの、作品以前に一枚の「写真」として認知するもの、補助的な役割のものの三つである。筆者は選択した写真(L 版[127 mm×89 mm])から、キャンバス画面上へ制作する際は、記憶や体験を体現することも念頭に入れて表現している。撮影した当時の記憶と筆者の心境を含め、写真のイメージがどのように作品の表現へと繋がっていくか、具現化された風景画の画面上を構成するさまざまな形と色彩によって仕上がったかを過去作品を通して見ていく。第三章では、修了制作《帰路に就く》を描くにいたって、当時撮影した時の記憶と体験と共に、卒業制作《白宙夢》の写真上のイメージによる表現についても深く言及している。それは、太陽が光源である《白宙夢》と電灯や信号機の明かりが主となる《帰路に就く》の二作品に共通する光の性質の違いを考察することで、《帰路に就く》の本質を浮き彫りにする。また、元の写真と記憶の結びつきによる色彩の幅が広がる様子を言語化することで、想像の力で補うことができると考えた。目に見えない筆者の体験や記憶を視覚化するには、撮影してから風景画にいたるまでの順序が大事だと言える。それは、実体のない写真画面上のイメージをキャンバスに描くことで、実体のあるものへと変化する過程もまた自身にとって経験になるからである。以上、本修了制作では、写真の発するインスピレーションから作品化していく様相を具体的に考察している。

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