著者
神谷 光信
出版者
関東学院大学キリスト教と文化研究所
雑誌
キリスト教と文化 : 関東学院大学キリスト教と文化研究所所報 (ISSN:13481878)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.47-57, 2016-03

遠藤周作は日本国内のみならず、英仏語に翻訳され国外でも評価された作家、すなわち西欧に発し、今日ではグローバルな商業流通と結びついた「世界文学空間」システムに組み込まれた国際的な著者である。しかし不思議なことに、彼の代表作『死海のほとり』は多言語に全く翻訳されていない。理由の一つとして考えられるのは、この作品が強い政治性を帯びたテクストとして読まれうることだ。ナチスによるユダヤ人迫害が描かれているが、イスラエルのユダヤ人によるアラブ人抑圧もさりげなく描き込まれている。つまり、アラブ人、ユダヤ人双方から批判される可能性を持つテクストなのである。遠藤は村松剛を通じてイスラエルの政府の協力の下に取材旅行をしているが、イスラエル側が見せたいと思った世界と作家が実際に見た世界は違っていた。現代のイスラエルには関心がないと発言する主人公の目に入るのは、アメリカ合衆国の俳優ジョン・ウエインが騎兵隊に扮した映画館のポスターである。先住民を駆逐する騎兵隊イメージは、アラブ人を抑圧するイスラエルの隠喩であり、このような暗示的描写が作品中には少なくない。 作者はアウシュビッツ問題とパレスチナ問題を重ね合わせて捉えているのであり、物語の最後で描かれる<永遠の同伴者イエス>も、虐げられたユダヤ人がアラブ人を虐げるという暴力の連鎖状況を踏まえて提出されていると考えるべきなのである。

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