著者
比屋根 均
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.51-77, 2012

本稿は,筆者が技術者倫理教科書『技術の知と倫理』において取組んだ,技術者に無意識のうちに倫理的配慮の足りない判断をさせる要因の追究について,その後の発展も含め纏めたものである.無意識的な要因によって倫理的配慮を不足させていることは,従来の技術者倫理が倫理的想像力を増すことで配慮を行き届かせる戦略を採っているにも関わらず,誠実に仕事に取組む多くの技術者からは不評であり続けており,しかし非倫理的と受け取られるような不祥事や社会対応が続いているという事実から浮かび上がる.本稿ではその無意識的な要因を次の 4 つに分けて論じる.1.学習生活と社会人生活とのギャップへの無自覚,2.判断を誤らせる科学・技術の真実性への誤解,3.独善的態度にさせる判断の客観性への錯覚,4.感じ方の主観性への認識の欠落,である.1 では,長年の学習生活で身につけてきた生活術が,社会人・技術者生活には通用しないこと,及びその認識の浅さが,誤った判断や行動の原因になりえることを指摘する.2 では,理論優先の科学・工学等の教育が,現実よりも理論的であることを真実と感じてしまう性癖を生んでいることを指摘する.3 では,科学的・工学的判断は正しく客観的な価値判断でもあるかのように錯覚している可能性を指摘する.4 では,技術者が本質的に全く客観的には判断できる存在ではないことを明らかにする.本稿は,このような無意識的な要因を指摘し理解させることを,技術者倫理の必須の内容とすべきことを,結論として主張する.

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