- 著者
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落合 隆
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- no.84, pp.237-267, 2016
ルソーは,宗教を政治との関係においてどうとらえているであろうか。この考察を通して,彼の政治思想に宗教の側面から光を当て,彼の思想がもつ現代的意味を探りたい。『社会契約論』によれば,歴史的には,政治と一体化した「市民の宗教」,国家の中に国家をつくる「聖職者の宗教」,政治から切り離された「人間の宗教」ないし自然宗教があった。そして,ルソーは,市民の宗教と人間の宗教それぞれの利点を結びつける「市民宗教」を提起する。市民宗教は,政治体に参加する市民であるための神聖な宣誓として政治を支えるが,同時に政治体の中に人間の宗教への指向性を確保する。元来排他的な政治体が市民宗教を通して人間性に向けて開放され,祖国愛は人間愛へつながる。市民になることによってしか人間になれない。そして,市民宗教の教義の1つである不寛容の排除によって,個人の信教の自由は互いに尊重されて,さまざまな宗教・宗派を超えて人々が市民として共同体に結集し,社会的不平等のような人間自らが招いた悪に協力して立ち向かうことができるようになるのである。