著者
尾上 正人
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 = Memoirs of Nara University (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.46, pp.183-196, 2018-03

トマ・ピケティの 『21世紀の資本』 には、2度の世界大戦のみが、資本主義における格差拡大傾向を押しとどめたという、いささか物騒な記述が散見される。本研究はこれにも示唆を得て、進化生物学の「ハミルトン・ルール」(包括適応説)に準拠しつつ、戦争を単なる国民大衆に降りかかる災難ではなく、既存の階層秩序が揺らぐ中で戦功を上げて一族の栄達を図る、繁殖戦略に裏打ちされた身内びいき的利他行動の場である、という仮説を立てた。この仮説を検証するため、究極的利他行動である特攻の実行者の遺族、および生存者を対象とした聞き取り調査を行なった。両家族の比較の結果、当初想定していたような「ハミルトン・ルール」は妥当せず、特攻戦死者の遺族が重要な働き手を失って家族の再生にかなり苦労し、未成年のきょうだいたちも十分な教育が受けられなかったのに対して、生存者の家族は戦後の生活の立て直しも比較的容易であったことがわかった。

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CiNii 論文 -  繁殖戦略としての戦争の進化学的研究 https://t.co/WT2KXhT3m6

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