著者
小関 和弘
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 = The bulletin of the Faculty of Representational Studies (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.18, pp.202-185, 2018-03-11

一八七二(明治五)年、新橋横浜間に日本初の鉄道が開通した。それからさほど時を隔てずに、江戸時代の『遊覧記』『街道記』等の伝統を承けた形で、『鉄道名所案内』『鉄道旅行案内』といった諸書(本稿では〈案内記〉と称す)が次々に刊行され、以後、さまざまに形を変えながら観光案内書の山脈を形成してきた。本稿ではそれら〈案内記〉のうち、鉄道開通直後の一八七〇年代から鉄道国有化直前の一九〇〇年頃までの書冊に記された文学関連の名所(歌枕類)・史蹟などに関する記述について検討した。観光ガイド的な〈案内記〉の記述中で伝統的文学表現─その中に最後の光芒のように漢詩への回帰も出現するのだが─と土地との関わりがどのように記述され、該地の観光地としての魅力宣揚にどのように「活用」されたか、またその「活用」法が主要幹線の整備や旅行者の量的・質的変化といった時代の推移とともにどのように変遷したかを時系列的に辿った。本稿では〈旅行案内〉、〈名所案内〉といった旅行案内書類(以下〈案内書〉)と文学──〈案内書〉に引用される詩歌を中心に検討するに過ぎないが──との関係、言い換えれば、旅行業・観光産業によって文学形象・文学的伝統が、どのように利用及び消費、消尽されてきたかの一端を確かめるために、鉄道開通直後から一九〇〇年頃までに刊行されたものを対象とする。とは言え、検討のために〈案内書〉としてここで取り上げた諸作を厳密な外延で規定することは難しく、対象の選択にはかなり不明確なところがあることを断っておきたい。また、日本全国各地の歌枕、名所・旧蹟と詩歌との関係等を偏りなく取り上げることは不可能で、筆者の関心が傾く東北地方の記述がやや多めになっていることをも断っておく。

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