著者
川村 周三
出版者
日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.55-60, 2012-01

1.はじめに: 北海道の豊かな自然と広い大地。日本の一般消費者の多くは北海道で生産する農作物、畜産物、水産物に「新鮮で美味しくて安全」という良いイメージを持っている。実際にも、北海道の食料自給率(カロリーベース)は約200%であり、日本の食料基地として本州の大都市圏に多くの食料を供給している。東京、名古屋、大阪などの百貨店において、"客寄せイベント"として北海道物産展が定期的に開催される。北海道物産展の目玉商品の多くは農畜水産物やその加工食品である。数年前までは、その目玉商品に中に「北海道米」が登場することは決してなかった。従来から、日本で一般消費者に最も人気のある(一番美味しいと思われている)米は「コシヒカリ」である。一方、北海道は高緯度寒冷地であるために府県で育成されたイネの品種を栽培することができず、北海道で育成された品種のみを栽培してきた。また、府県に比較すると北海道はイネの登熟期間が短く登熟期の気温も低いために、イネにとって生育環境が悪い。その結果、古くから「北海道米は美味しくない」とされており、「北海道米は売れないお米の"やっかいどう米"」とも揶揄(やゆ)されてきた。そこで、北海道では米の食味向上を目指して、農家、農協、試験場、大学などの米の生産とその技術に携わる数多くの人たちが連携して、長年にわたる努力を積み重ねてきた。その結果、近年は百貨店の北海道物産展の目玉商品に北海道米が登場するようになった。ここでは、北海道から発信するフード・イノベーションとして、長年にわたり実施してきた米の食味試験の結果をとおして、北海道米の食味向上の軌跡と奇跡について述べる。

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